とッてもいい天気だったから、
死ぬにはいい日だと思ったンです。
空が遠くて、
其れが最後です。
「夢見る心」
元々その為に
あなたという存在が
生まれたとはいえ
私としては、
だからといって絶対それに
従わなくてはならないものとは
思っていなかった
あなたが望むなら
期待も責任も義務も
全て無視して、
己のものでは無いと振り払って
外の世界へ飛び出して行ったって
いいと思っていた
だけれども
あなたは本当に皆が望む
理想の存在として生まれて来てしまった
皆、あなたに期待して、
そうすることを疑わなかった
それがどんなに惨いことかも知らないで
そしてあなたは、
優しかったから期待に応えたし
望みを叶えたし、
理想を演じてあげていた
さいごまで、
あなたの全部を皆のために消費して
声高にこんな考えを言えば
攻撃されて、排斥されて
あなたほどの武も知も縁も持たない
私はきっと生きていけないと
そう思った
こっそり言ったって
あなたの周りには虫が多かったから
どちらにせよ
口に出せば、どんなに隠れていたって
誰かの耳には入る、そんな地だ
だから私は保身に走って黙っていた
だけど今、
そんなこと関係ないと、
しがらみや恐れなんか無視して
全て言えば、伝えればよかったと
そう思う
後悔しているのだ
届かなくなる前に、
私はこの想いも、考えも、
本当のことも、この地の秘密も
言えばよかった、と
いつも私はそう
手遅れになってから後悔する
そんなんだからこうして
閉じられた扉にすがりついて
泣き喚く羽目になるのだ
「届かぬ想い」
神様へ
神様、あなたがまだおいでなのか、
それとももう人の世に飽いて
とっくに世界を去られているのか、
わたくしにはわかりません。
この世に元から神なぞ存在せぬと、
そう言う人間もおります。
それでも、
この完璧に破綻のない、
知れば知るほど人智を超えていると
感じさせるこの世界の理が、
ただの偶然で生まれたとは
わたくしには到底思えないのです。
わたくしは、神様、あなたが
人を救うような、人間に都合の良い
夢のようなお方だとは思いません。
しかし、あなたがただ、おられると、
あるいは、かつて本当におられたのだと
信じられるだけで幸福だと感じます。
優しく、厳しいこの星で、
きっと、弱い人間が生きる為には
無条件に祈り、縋ることが許される
強く尊い存在が必要でした。
今、だんだんと人々が
あなたのゆりかごから
巣立ちの時を迎えようとしていることを
ひしひしと感じます。
これまでの時を、
祈ることを許してくださったこと。
縋ることを許してくださったこと。
そしてなにより、
その存在を信じさせてくださったことに
わたくしは感謝いたします。
そして、もし傲慢にもひとつ、
願うことを許してくださるのならば、
どうかあと少しだけ、
わたくしたち人間が
ひとりで歩けるようになるまで、
わたくしたちを御見守りください。
■■より
「神様へ」
風が強い。
色とりどりの洗濯物が
旗のようにはためいて
雲ひとつない快晴の空によく映えた。
帽子が飛ばないように押さえながら
家々の建ち並ぶ細い路地を歩く。
劣化した舗装の隙間から
小さな花が顔を覗かせていて
そこだけ少し明るく見えた。
誰を訪ねに来たわけでもなく
私は知らぬ街、知らぬ住宅街を歩いている。
馬鹿みたいに空が青一色だから、
白昼夢でも見ているような気分だ。
天気がいい割に人はまばらで、
すわゴーストタウンかと疑うほどだった。
コツコツと私が歩く足音と、
びょうびょう、パタパタと
強い風とはためく布の音がいやに耳に残る。
それでふと、なんだってこんなに
私は怖がっているのだろうと思った。
だって昼間なんだから人が少ないのは当然で、
ヒールのある靴で舗装された道を歩いたら
そりゃあ音もするだろう。
帽子も被っていることだし、
風の音が大きく聞こえるのも不思議じゃない。
だのに、私はそれらを何故か、
気味が悪いというか、
うっすら不安に思っているようだった。
気がついたからには
理由が気になるというのが人間というものだ。
だもんだから、ぼぉっと上を見ながら
私はしばらく考えて、理解した。
私はあの、絵の具をぶちまけたような
現実味を感じさせないほどの“快晴”が
なんというか、落ち着かなくて
怖くて、気持ちが悪かったのだ。
それがわかった時、本当に驚いた。
だって、今日ここは、気持ちがいいほどの快晴と
言われるような天気をしているのだ。
それに恐れを抱くことがあるのかと、
そう思ったのだ。
けれど、美しすぎるものは、
ある種の威圧感というか、
まあ畏れを抱かせるものらしい。
現実感が無くなるほどの青は、
私にとっては畏れを抱くに足る、
強烈に侵蝕される美だったのだろう。
そう納得したころ、
路地が途切れて大通りに出た。
広くなって更によく見えるようになった空の端に
白い雲が一切れ漂っているのが見えた。
多分、そこでようやく、
私は夢から醒めたのだ。
「快晴」
長期休みは、
フラフラとバイクに乗って
日本を遡上したり、下っていったり、
真横にぶった切ってみたりと
何となく方角を決めて走る。
旅、という感じがして、
若い頃からこの遊びが
私の一番のお気に入りだったからだ。
そういうわけで、独身貴族万歳と
しがらみもない私は毎年時期になると、
行き当たりばったりにあちこちへ
「旅」をする。
どの旅も印象に残るような出来事はあって、
まさに一期一会の楽しみがあるのだ。
それでもやはり、特別な旅というのはあるもので。
その特別な旅の中で
私が最も心に残った旅の話をしようと思う。
あれは、まだ私が若い時分の旅の話だ。
初めての旅から数年が経った頃、
だったように記憶している。
当時はだんだん旅にも慣れてきて、
相変わらず面白くはあっても
初めての旅程の刺激もないので、
どうしたものかと思っていたような、いないような。
まあとにかく、そんな感じだったのだ。
その時走っていた道の周りはほとんどが田畑で、
空がとても広かった。
それで、鼻歌を歌いながら走っていた時に、
後ろが暗くなってきたことに気がついたのだ。
不思議に思って、ミラーを見ると、
遠くの空で巨大な雨雲が
みるみるうちに大きくなって
こちらに近づいて来ているのが見えた。
こりゃあ、雨に降られるぞ、と思った。
気温はまあ、問題なくても、
視界が悪くなるので、少し面倒に思ったのだったか。
それで、私は多分若さも手伝って、
あの雨雲と競争をしようと思い立ったのだ。
割と私は善戦したと思う。
普通だったらもっと速く降られていた。
けれど、私は追いつかれて、追い抜かされてしまった。
残念だ、と雨に濡れながらバイクを停め、
空を見上げた。
そして、晴れと雨の境界線をはっきりと、
私は見たのだ。
それは、とても不思議で、でも考えてみれば
それなりに当然
起こるんじゃないかと思う出来事だった。
だけれども、私の心を掴んだのは、
私は今、雨と晴れの狭間にいる、
そして行き来できる、という
なんというか、子どもじみたよろこびだった。
要するに何か、ロマンを感じる、
心が浮き立つ瞬間だったのである。
言ってしまえば晴れのち雨、それだけだ。
でも私は、その時に
ただ地べたを走り、旅をしているのではなくて、
空もともに走っている旅の道のひとつだと
そう感じたのだ。
遠くの街へ
遠くの海へ
遠くの道へ
遠くの空へ
全部に繋がるような旅がきっとできる、
そんな気がして
どうしようもなくワクワクした。
だから私はそれ以来、
通る世界全てを走るつもりで
旅をしている。
つもり、でしかないことは分かっている。
でも、旅はロマンがなくては!とも思うのだ。
そうして、私はフラフラと気になるものを
見つけては心に留めて、時にはメモや写真を撮って
毎年旅をするのだ。
「遠くの空へ」