なんにもないよ
ここにはないよ
隠してないよ
嘘じゃないもの
ほんとだよ
後ろは見ないで
足元もだよ
覗き込まないで!
なんにもないったら…
どうして
そんなに気になるの
どうして
そんなに気にするの
どうして
そんなに探すのよ!
なにもないって言ってるのに
断
見つかっちゃった
見つけられちゃった
バレちゃったね
覗かれちゃったね
バレなければ
見られなければ
知られなければ
すました顔して
隣にいられたのに
ああ、私の顔、
こんなに醜かったかしら
「何気ないふり」
ハッピーエンド、
素敵だよね。
苦難を乗り越えて
幸せを掴み取って
めでたしめでたし。
バッドエンドとか
観てられないくらい苦手だしさ、
メリーバッドエンドだって、
本人たちが幸せだっていっても
観てる私は苦しい。
だけどこの世は
バッドエンドも
メリーバッドエンドも
嫌になる程ありふれていて
“あの家の奥さん、若いのにくも膜下で”
“自殺したんだってさ、可哀想に”
そんな話を聞くことも
まァ珍しくもない。
どうせ生きるなら
ハッピーエンドでさ
“ああ!楽しかった!”
って終わりたいけれど、
でも本当は
ハッピーエンドじゃあ
私、満足出来ないや。
終わり良ければ全て良しなんて
そんな訳ないじゃん。
そりゃ喉元すぎりゃとか言うよ。
確かに少しは忘れるけどさ。
でも渦中にいる時は
痛い痛い
苦しい苦しい
“誰か助けてくれ!!”って
もうなんでもいいから
縋りつきたいの。怖いの。
ずっと幸福にひたってたい。
痛いのも苦しいのも辛いのも嫌い。
それが叶わないから、
叶わないことが分かっているから、
エンディングまでの道のりが
こんなにも遠く感じる。
息苦しいな。
生き苦しいな。
「ハッピーエンド」
まだ何も知らぬ
幼子だから
この世の全てが
興味深く、美しく見えて
たくさんの愛に包まれて
大切に大切に守られてきたから
人の醜さを
疑うことを知らぬ
無垢でいとけない
愛されるべき生きもの
それでも
無垢であるからこそ
ものを知らぬからこそ
そのむき出しの本能は
幾重にも纏う
煌びやかな衣の奥に隠された
浅ましき本心を
嗅ぎつけ、見透かす
それが何かもわからぬのに
必死に隠した私の醜さを
いとも簡単に見つけてみせる
そしてその無垢な瞳で問うのだ
それはなにか、と
答えてもらえると
疑いもせずに
「見つめられると」
過去と 悪夢と
虎馬と 恐怖と
不安と 興奮と
自分と 痛みと
未来と 体温と
古傷と 貴方に
いじめられて
可哀想だね
「My Heart」
しんしんと降る雪
庭の梅の花が
雪を被って俯いている。
私はそれを、
食卓に置いたマグに手を添えて
暖房の効いた部屋から
ぼんやりとみている。
娘が、家を出て5年。
息子も、この間家を出た。
私は今、この広い一軒家に
1人で暮らしている。
夫とは上手くいかなかった。
はじめはなんでも素敵にみえるもの。
でも恋の魔法が解けてしまえば
何かしら、この失礼な男、ってね。
しばらくは“父親も必要よね”とか
だましだましやってたけれど
夫婦喧嘩が酷くって
子どもに静かに泣かれたら
もうそんなこと言ってられない。
だからお別れした。
手に職あるってこういう時強いのね。
それで、がむしゃらに
片親で馬鹿にされないように、と
働いて働いて
きっと寂しい思いもさせたけど
二人ともいい子に育ってくれた。
だけど、時々
料理の分量が変わったことに
子どもの声が聞こえないことに
部屋の明かりが少ないことに
紅茶の温もりがあるのに寒々しい部屋に
心に穴がぽっかりあいたみたいな
不思議な心地がする。
そうして、ぼんやりと外を眺めて
過去を思い返すことが増えた。
私は幸せ者だと断言できるし、
きっと世間一般的にも、
それなりに幸せな人生を歩んでいる。
子どもたちの自立だって、
寂しくはあるけどそれ以上に
ここまで立派に成長してくれたことが
本当にほんとうに、うれしかった。
それなのに、心はひゅうひゅうと
隙間風のように、空いた穴を主張する。
この心の虚は、
一体何を欲しがっているのだろう。
「ないものねだり」