この人、話したくない。
でも面倒だから愛想笑い。
この香り、得意じゃない。
でも素敵な香りね、って嘘をつく。
この果物、好きじゃない。
でも吐き出せないから飲み下す。
この色、好みじゃない。
でも貰い物だから、うれしいと言わなくちゃ。
そうして
そうして
そうして
気がついたら私の周り、
嫌いなものばかり。
「好きじゃないのに」
『……はいっ、佐藤さん
ありがとうございました。
これからの高坂選手の活躍が楽しみですね。
(♪メロディ)
続きまして、
心天気予報のお時間です。
心象予報士の新田さーん!
はい、心天気予報の新田です。
今朝はかなり冷えましたね、
皆さん、夢見はいかがでしたでしょうか。
それでは、今日の全国のお天気から。
今日は先月末の■■地震の影響で、
広範囲でくもりが続く見込みです。
一日中冬季うつ並の冷え込みが
続く予想となっていますから、
みなさんなるべくカーテンを開けて、
日が出ている時間は日光を浴びてくださいね。
また、■■地方から●●地方にかけて、
引き続き余震に警戒が必要です。
強い不安や不安の伝播等の影響で
ところにより雨が降るでしょう。
なるべく安心できる人とよく話し、
心に余裕をあらかじめ作っておいて下さいね。
被害にあわれた方やご家族は
心の傷つきが特にひどく、
大きな嵐や豪雨が続いたり、
不自然な凪が続いたりといった
異常心象が予想されており、
心象庁から特別警報が発令されています。
こういった状況こそ助け合いが重要です。
ご家族やご友人、お隣さん、
皆さん声をかけあって、
命を守る行動をしてください。
助けが必要な方や、
そういった方を見つけた方は、
必ず避難所や病院に併設されている
心象救護所へ向かうか、連絡して下さい。
人命に関わりますので、必ず早めのケアを。
詳しくは心象庁のホームページや、
気象庁のホームページをご確認下さい。
電話やSNSでのホットラインはこちらです。
続きまして、各地方の詳しいお天気を……』
ぱちりと目を開く。
遅れて、夢を見ていたことに気がついた。
カーテンを閉め忘れた外は真っ暗で
夜明けの遠さを知る。
夢か。いやにリアルなのに、非現実的だった。
ああでも、これくらいの予報があれば安心なのか?
それとも、来たる嵐にさらに怯えることになるのか。
しばらく考えて、二度寝することにした。
考えたって意味の無いことは考えないに限る。
考えてしまうなら脳みそ強制終了だ。
さて、つぎはどんな夢を見るのだろうか。
消し忘れたラジオが、
昨夜呑んだビールの空き缶の隣に居座って
『ハート製薬が午前3時をお知らせします』
などと返事もないのに喋りかけていた。
「ところにより雨」
最近のラジオはテレビの音も聞けるそうですね。私は深夜ラジオが好きで、でも山のせいでよく聞こえないものですから、必死にちょうどよくアンテナが受信する位置を探して聞いていました。
彼女はどこか浮世離れしていて
半分透けてるんじゃないか、なんて
思うくらい静かで気配が薄いのに、
そこに確かに居たと、
その影だけがずっと残っている。
いつの間にかそこにいて
外国のひとだったから
何を言っても伝わらなかったし、
彼女が何を思っているのかも
幼いぼくにはさっぱり分からなかった。
だけど居なくなってから
ふと思い出すたびに
彼女は本当の本当に
そとのくにのひとだったんじゃないかと、
そう思うのだ。
日光を羽衣のようにまとう
黄金の毛並み。
それがよく似合うのに、
でもその羽衣は貴女のものではないのだ。
どこでもない場所に
静かな視線を向ける貴女は
宇宙人か、それとも異界のひとか、
そういう妄想をする。
貴女が土の下に埋まった
ずっとあとに。
その時、脳裏に浮かぶ貴女は
レースのカーテン越しに見るように朧気で、
だけど光にあてられて
濃い影を残している。
そんな姿だけが、
ぼくの記憶に残っている。
「特別な存在」
頭の中の神さまに怯えて
そのくせ陰で
嫌だ嫌だ、こんなのおかしいと喚いて
土下座するように伏して泣く
私を指さして嘲笑う私がいる
「バカみたい」
あんたが飽きたら別れよう
わたしが飽きたら別れよう
それがくるまで
ときがくるまで
手ェつないでさ
共にゆこうか
あんたが死んだらわたしも死ぬよ
わたしが死んだらあんたも死んで
共にゆくなら
寂しくないさ
月のない夜
くらい夜
二人ぼっちで
どこへゆこうか
「二人ぼっち」