「スマイル」
鏡に向かって笑いかける自分の顔は
なんとかなる程度だと
思って出かけたとしても
あなたには
全く通用しない。
つらそうだね、と言われた途端
スマイルなど崩れて
涙が溢れてしまう
そんな役立たずなスマイル。
「海の底」
空高く飛ぶものが
鳶だとして
彼らにとって「空の底」は地獄
鳶にとっては死の世界
海の表面に浮かぶものが
鷗だとして
彼らにとって「海の底」は地獄
鷗にとっては死の世界
空の底は地球の一番外側の地上
海の底は地球の一番外側の表皮
地表が「大空の底」であるように
海底が「地球の表」であるように
終わりは始まり
始まりは終わり
「海の底」
「閉ざされた日記」
その在り処は
誰にも見えないし
誰にも触れられない
その存在は
誰にも語らないし
誰にも気取られない
閉ざされた表紙を開ける時は
私がすべての傷痕を
直視できるようになった時
私がすべての記憶を
直視できるようになった時
わたしが生きている間に
それが適わないとしたら
永遠に誰一人
それを知ることはないだろう
だからあなたがここで見たことは
だ れ に も
いわないで
「閉ざされた日記」
「木枯らし」
コガラシは
厳しく
冷たく
存在を否定し
枯らそうと、消し去ろうと、
つまりは殺そうとする意志を持つ
狂気を含む風。
しかし本来は
木を枯らそうとするものではなく
春の訪れを正常に感じさせるため
厳しさを木々に体験させている。
そうして木枯らし自身は
忌み嫌われ、眉をひそめられ
「来なければいいのに」と言われ
祝福も感謝も労いも享受することなく
春の訪れの前に
山の彼方へ独り消えてゆく。
その後ろ姿を誰にも看取られることなく。
「木枯らし」
「美しい」
美化は偽物
却って真逆
ほんとうに美しいものは
美しく見せようと虚勢を張る必要がない。
「美しい」