「雨に佇む」
雨の中に佇むなんて
あわれで不幸せなシーン、
だと思ってた。
あなたの部屋で話し込んでいるうちに
外は土砂降りになっていた。
「小雨になるまで、まだいたら?」
あなたの言葉に
まだ何か伝え残したことがあったのだろうかと
訝しんで思い出す。
「ありがとう」と
たどたどしく応えるわたし。
まだたりない。
感謝を伝えきれていない。
なかなか止まない雨に
「帰るなら、これ、使って」と
レインコートを差し出すあなた。
ありがとうと言って受け取ったけれど
指先がでないくらいブカブカで
笑顔になる私たち。
雨の中、家から出て二階を見上げると
手を振る笑顔のあなた。
その笑顔を目に焼き付けたいのに
涙で滲んでしまう。
雨の中に佇むなんて
あわれで不幸せなシーン、
だと思ってた。
冷たい雨にうたれているのに
この温かさはどうだろう。
この嬉しさはどうだろう。
「雨に佇む」
「私の日記帳」
本来は日記帳ならば
カギをかけるほどのものなので
人に見せるものではない。
ならばいま私の綴る
これらの日々の吐露はなんであろう。
いま、この瞬間に
この崩れかけた豆腐のような
軟弱な儚い脳みそで考えたことは
今日、このときに
小さなわたしが生きた証拠になる。
であるならば
この文字のひとつひとつが
私の日記となり
日記帳となってゆくのだろう。
人に見せるべきものでもないはずだが
今日も、あがきながら
精一杯を記す。
が、できることならば
流し読みしていただけないだろうか。
「私の日記帳」
「向かい合わせ」
ざわめくカフェで
あなたの前に向かい合わせに座ったけれど
なんだか緊張してしまって
何を話したらいいか
まったくわからなくなってしまった。
お料理が運ばれてきて
左利きのあなたと
右利きのわたしと
フォークとナイフも鏡のように
向かい合わせになっている。
お互いに気づいて
ちょっと目を合わせて笑った
そのやさしい表情も
その心の中の思いも きっと
わたしとあなたはおなじ
向かい合わせの鏡のよう。
何も話さなくても もういいよね。
「向かい合わせ」
「海へ」
このほしの最初のいのちは
海で生まれた。
彼らは色々なからだのデザインを試し、
脊椎を選んだものが逃げるように川へ向かった。
そこは栄養の少ない水の中、
魚たちは体内に栄養を蓄えるため
複雑な枝分かれした骨をこしらえた。
頑丈な骨を手に入れた脊椎動物は
陸へあがり自分に適した
生きるフィールドを求めて移動し増えた。
この星に雨が降り、山の清水が溢れると
水たちは皆 海を目指した。
山の土も水に促され
共に海を目指す。
いのちも どうやら
海を目指すようにできているようだ。
すべてを受け止めても
顔色ひとつ変えない
偉大な愛情深い
このほしの胎内にかえるように。
「裏返し」
つらいと思っていたことが幸せだったり
幸せだと思っていたことが
じつはそこから先のない話だったり
将棋の「歩」が
裏返しになると「金」になるなど、
この世には
ひとめみただけではわからないものがある。
裏返してこそ
本物に巡り合う可能性がある。
「裏返し」