maria

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8/26/2023, 10:57:16 AM

「私の日記帳」


本来は日記帳ならば
カギをかけるほどのものなので
人に見せるものではない。

ならばいま私の綴る
これらの日々の吐露はなんであろう。

いま、この瞬間に
この崩れかけた豆腐のような
軟弱な儚い脳みそで考えたことは
今日、このときに
小さなわたしが生きた証拠になる。

であるならば
この文字のひとつひとつが
私の日記となり
日記帳となってゆくのだろう。


人に見せるべきものでもないはずだが
今日も、あがきながら
精一杯を記す。



が、できることならば



流し読みしていただけないだろうか。




         「私の日記帳」


8/25/2023, 12:16:34 PM

「向かい合わせ」


ざわめくカフェで
あなたの前に向かい合わせに座ったけれど
なんだか緊張してしまって
何を話したらいいか
まったくわからなくなってしまった。

お料理が運ばれてきて
左利きのあなたと
右利きのわたしと
フォークとナイフも鏡のように
向かい合わせになっている。

お互いに気づいて
ちょっと目を合わせて笑った
そのやさしい表情も
その心の中の思いも きっと
わたしとあなたはおなじ

向かい合わせの鏡のよう。

何も話さなくても もういいよね。


            「向かい合わせ」

8/23/2023, 11:37:35 AM

「海へ」


このほしの最初のいのちは
海で生まれた。
彼らは色々なからだのデザインを試し、
脊椎を選んだものが逃げるように川へ向かった。

そこは栄養の少ない水の中、
魚たちは体内に栄養を蓄えるため
複雑な枝分かれした骨をこしらえた。
頑丈な骨を手に入れた脊椎動物は
陸へあがり自分に適した
生きるフィールドを求めて移動し増えた。

この星に雨が降り、山の清水が溢れると
水たちは皆 海を目指した。

山の土も水に促され
共に海を目指す。

いのちも どうやら
海を目指すようにできているようだ。
すべてを受け止めても
顔色ひとつ変えない
偉大な愛情深い
このほしの胎内にかえるように。


8/22/2023, 3:22:12 PM

「裏返し」


つらいと思っていたことが幸せだったり

幸せだと思っていたことが

じつはそこから先のない話だったり

将棋の「歩」が

裏返しになると「金」になるなど、

この世には

ひとめみただけではわからないものがある。

裏返してこそ

本物に巡り合う可能性がある。

      
           「裏返し」

8/21/2023, 11:38:39 AM

「鳥のように」

容赦なく照りつける
残酷な太陽
植物たちはとうに両腕を垂らし
太陽に頭を垂れひれ伏している。

逃げ場のない乾いた土の上で
痩せたヘビが
少しでも腹を冷やせそうな場所を探し
這いずっていた。
ふわりと風を感じたので
急いで柱サボテンに身を寄せる。

舞い降りるかと思うと
方向転換して飛んでいったのは
鷲だろうか。
ヘビはサボテンの陰から
少しだけ頭をもたげると
天空の覇者である大鷲の
行く先をぼんやりと見ていた。


私にも鳥のように翼があったなら
この鉄板のような地面を蹴り上げて
空へと舞い上がるだろうに
叶うものならば鳥に生まれ変わりたい。


その時、辺りに一発の銃声が響き
天空の大鷲はもがき
その美しい羽を散らしながら
地面へと落ちていった。
猟犬たちの吠える声がする。


だんだんと光を失う瞳で
大鷲はぼんやりと先程逃した
獲物のことを考えていた。
あの蛇のように
目立たぬように地面を這うものであったなら
叶うものならば蛇に生まれ変わりたい。

蛇は音を立てぬよう
そっとその場を離れ
見つかるあてのない餌を探しに
どこかへと這っていった。


         「鳥のように」

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