maria

Open App
7/17/2023, 11:05:05 AM

「遠い日の記憶」


すきなひととの思い出とか
ほめられたこととか
試験に合格したとか

嬉しい記憶はいつでも思い出せる
心の浅い部分に
きちんとしまわれていて
自信を無くしそうになったり
かなしくなって誰にも相談できない時
それを引き出しから出して
パラパラとページをめくって
私は虫の息をようやく
ゴホッゴホッと吹き返す



好きな人に拒否されたとか
誹謗中傷をうけたとか
あなたは要らないとばかりに
不合格になったバイト面接とか

忘れたい記憶は 
もう出てこなくて良い。
心の奥の奥に鍵をかけて
深い海の底に沈めるように
真っ暗で探せないところに
放っておく

輪郭がぼんやりしながら
いっそ風化してほしい。
やがて塵となって消えて欲しい。

そういうのをまとめて

      「遠い日の記憶」という。

7/16/2023, 12:19:27 PM

「空を見上げて心に浮かんだこと」

広い広い空、
この平野は豊かな水をたたえた河が流れ
肥沃な大地と良質のコメがとれる。

南には干満の差が大きく
多種の魚や貝の安定してとれる海もある。

はるか北に山脈が見える
その稜線がわが領土だ。

食を脅かされる心配がないと
領民は穏やかで領主に従う。

領主の私もこの土地に満足しているので
いくさを起こして領土を拡げる必要もない。

広い空、
それは平和で穏やかな生活の象徴。

このムラでは
そうやって 子の代へ 孫の代へ
豊かな土地と平和をつないできた。


空を見上げて考える。
いつからだろう。
空を広いと感じなくなったのは。



さて あなたの街の空は?


  「空を見上げて心に浮かんだこと」

7/15/2023, 1:48:37 PM

「終わりにしよう」



のどまで出かかったとしても

その言葉だけは 口にしてはダメ。

ことばは効力を発揮して

二度と戻れないように

二度と戻せないように

ふたりの心を粉々に砕くから。

たとえ拾い集めたとしても 

もとには戻せなくなるから。


まるで かつてみた「滅びの呪文」



この呪文を心にしまってあるから

私は少々のことがあっても

笑っていられるんだよ。



でも そうね

いま 発動させてもいい? 

これで もう

     「終わりにしよう」

7/14/2023, 12:51:37 PM

「手を取り合って」


初めての出産

自分が産んだとはいえ
こんなに小さくてたよりない
あかんぼうという存在に
まだなれなくて戸惑って
なんとこえをかけたらいいか。

めをギュッとつぶって
小さなあくびをするきみは
そのてのひらをしっかりにぎってる

こんなにちいさいのに
指の先に爪が生えそろっていて
長いまつげがきれいにならんで
わたしなかなかやるじゃん
なんて感心する。

そおっと指で手にふれると
パッとひらいて
私の指をキュッとにぎってくる。

今まで犬や猫と暮らしてきたけれど
彼らは決してやらなかった
わたしが手をさしだすと
手をにぎってくるとくべつな存在

まだゆびをにぎるだけではあるけれど

これも 手をとりあってるって

いえるよね。

わたしたち 

これからもずっと

てにてをとって あるいていこうね

てにてをとって わらっていこうね

なんて声をかけるか きまった


     はじめまして ありがとう



         「手を取り合って」

7/13/2023, 12:08:13 PM

「優越感、劣等感」

サラジュは焼き上がった甕(かめ)を
土から掘り起こし眺めた。

サラジュが考えた甕は
下方がすぼんでおり
土に埋めやすくなっている。
そして上半分はまるで炎のように
上へ上へと伸びている。
改めてみるとなんとも不格好だ。

サラジュはため息をついた。
あれだけの手間をかけて
出来上がったのがこいつか、と。

そこへレシャヴが大きな魚を数匹
肩に担いでやってきた。
「今日の獲物だ。サラジュに」
丸々と太った鱒のようだった。
レシャヴは自作の銛で魚を捕る名人だ。
サラジュは自分が甕作りに没頭している間に
レシャヴが手に入れたおおきな獲物を思うと
恥ずかしくなった。

魚をサラジュに渡しながら
レシャヴはサラジュの焼いた甕をみた。
このような形の甕は初めて見る。
レシャヴは自分にはない
サラジュの才能に嫉妬した。

ガンダがそこへやって来た。
ガンダは近々マディヤムと夫婦になるため
マディヤムのために緑色の石で
作った耳飾りを見せに来たのだ。

サラジュとレシャヴは
ガンダの作った耳飾りを見て
目を見張った。
赤子が体を丸めて眠るような
なんとも美しい形をしている。
マディヤムもさぞ喜ぶだろう。

ガンダはサラジュの焼いた甕を見
レシャヴの獲物である鱒をみた。
彼らがこれら大きなものを手に入れた時
自分はなんと小さなものに
夢中になっていたのだろうと。


三人は互いに恥ずかしくなり
やがてムラを出た。


サラジュは北へ
レシャヴは南へ
ガンダとマディヤムは西へ

そうして時は流れた。


…………

私はいま、
北の国でサラジュの焼いた
火焔型土器を目にし

南の国でガンダの作った
青銅の剣を目にし

西の国でレシャヴがマディヤムのために
心を込めて作った
ヒスイの勾玉を目にしている。

そうして それらの品々が
私に物語をきかせてくれる。


縄文時代から こんなふうに

優越感と劣等感は続いていて

にんげんの文化というものは

それら にがくて切ないおもいによって

受け継がれてゆく。


          「優越感、劣等感」



Next