「これまでずっと」
これまで ずっと
なにをつづけてきたと?
なにを育ててきたと?
なにを信念として
何を護って 何を赦さず
何を自分の芯として
生きてきたのか、と問うている?
むずかしい そしてはずかしい
これまで ずっと
薄い人間関係と
安い品物に囲まれて
ただ陽が昇り 月を見て 星を見て
地球のため息をきく毎日を
今日 この瞬間に直視させられるとは。
なんという切れ味のナイフだ。
おかげでかなりの出血である。
おかげでかなりの瀕死である。
今日の お題。
「これまでずっと」
「1件のLINE」
「LINEやってますか?」
「すみません。スマホを持っていないので」
「そうですか……」
これでLINEについての会話は終了。
電話をかけるのは邪魔かもしれない。
もしも受けてくれなかったら
私が予想以上に傷つくに決まっている。
だから気になって
だから心配になって
だから頻繁に会いに行く。
会いに行く途中も
ずっとあなたのことを考える。
まずなんて声をかけようか、
どんな話をしようか、
行く道で グルグル グルグル
ずっと ずっと
あなたのことだけ考える。
あなたを目の前にして
私はひとつひとつの言葉を
両手ですくって そおっと
丁寧にあなたの目の前にかざすように
すべてのことばをあなたを輝かせるために
すべてのことばをあなたを微笑ませるために
決して「愛している」と言わずに
それに代わる言葉をえらんで
だいじに だいじに 唇にのせる。
帰り道も ぐるぐる ぐるぐる
ずっと ずっと
あなたのことだけ考える。
私のことばは足りてただろうか。
余計なことは言わなかったろうか。
傷つけなかったろうか。
幸せな気持ちで眠ってくれるだろうか。
あなたがスマホを手にしてしまえば
LINEでやり取りするようになってしまえば
こんなぐるぐるな想いはなくなるだろう。
だから「1件のLINE」までの
大事な大事な わたしのじかん
まるで宝物のような
ふたりのじかん
「1件のLINE」
「目が覚めると」
あさ 目が覚めると
そこは未来
まだ出会えていないひとがいる。
伝えてなかった言葉がある。
まだ見ていなかった黒い森も
まだ登っていなかった丘も
まだその足を浸したことのない湖も
まだ嗅いだことのない一夜だけ咲く花の香も
やり残したことがあるの
たくさん たくさん あるの
目が覚めると
「あぁ もう未来に来てしまった」
と あたまを抱えて、
やり残したことの多さに慄いて
かの過去を羨むわけよ
やり残したことの多さに慄いて
この未来を恨むわけよ
私なんて 毎朝そうなんだけど
あなたは?
「目が覚めると」
「私の当たり前」
なにを着ようか
なにを食べようか
どこへいこうか
どこへ住もうか
だれとすごそうか
だれとつきあおうか
称賛されようが 軽蔑されようが
息を吸って 吐いて 吸って 吐いて
私は死にむかってすすんでいるだけ
死は美しくもなく 死は特別でもなく
たとえばわたしが 今宵
息をすることを止めたとして
周りの人々がわたしを
英雄視するわけでもなく
残された人々がわたしを
幻想的に神格化するわけでもない
死んだわたしは灰になり
まことに残念ながら
このほしに棲む生き物の栄養となったり
植物を育てるための糧となることすら
叶わない、ただの塵となる。
完全にこのほしの輪からはずれた
ハグレモノ。それがにんげん。
完全にこのほしの愛からはずれた
ハグレモノ。それがにんげん。
こんなゴールが見えているからこそ
わたしはブレずに 今日も生きる。
輪に属していないからこそ
輪を見つめることをえらぶ。
愛されていないからこそ
愛することをえらぶ。
それが私の当たり前
「私の当たり前」
「街の明かり」
土曜の夜は日常を抜け出して
喧騒を離れて 海へとやってくる
否応なしに耳を攻撃してくるCMソングも
これでもかと自己主張する街頭ネオンも
一切の音を遮断して
この地球の発する音だけに
耳を休ませるために
眼をいたわるために
対岸の小さな小さな街の明かりは
天空の星たちと同じ大きさ
地上の私からみえるのは
寸分たがわぬようであるのに
それらの抱える思惑も
それらの抱えるとしつきも
似て非なるもの
人の世の中においても
見かけだけでは測りしれない
奥底の某かがひっそりと
隠れているものなのかもしれない
深呼吸して 私は街へと戻る
ものごとの奥底に隠された
某かを見極めるために
「街の明かり」