maria

Open App

「優越感、劣等感」

サラジュは焼き上がった甕(かめ)を
土から掘り起こし眺めた。

サラジュが考えた甕は
下方がすぼんでおり
土に埋めやすくなっている。
そして上半分はまるで炎のように
上へ上へと伸びている。
改めてみるとなんとも不格好だ。

サラジュはため息をついた。
あれだけの手間をかけて
出来上がったのがこいつか、と。

そこへレシャヴが大きな魚を数匹
肩に担いでやってきた。
「今日の獲物だ。サラジュに」
丸々と太った鱒のようだった。
レシャヴは自作の銛で魚を捕る名人だ。
サラジュは自分が甕作りに没頭している間に
レシャヴが手に入れたおおきな獲物を思うと
恥ずかしくなった。

魚をサラジュに渡しながら
レシャヴはサラジュの焼いた甕をみた。
このような形の甕は初めて見る。
レシャヴは自分にはない
サラジュの才能に嫉妬した。

ガンダがそこへやって来た。
ガンダは近々マディヤムと夫婦になるため
マディヤムのために緑色の石で
作った耳飾りを見せに来たのだ。

サラジュとレシャヴは
ガンダの作った耳飾りを見て
目を見張った。
赤子が体を丸めて眠るような
なんとも美しい形をしている。
マディヤムもさぞ喜ぶだろう。

ガンダはサラジュの焼いた甕を見
レシャヴの獲物である鱒をみた。
彼らがこれら大きなものを手に入れた時
自分はなんと小さなものに
夢中になっていたのだろうと。


三人は互いに恥ずかしくなり
やがてムラを出た。


サラジュは北へ
レシャヴは南へ
ガンダとマディヤムは西へ

そうして時は流れた。


…………

私はいま、
北の国でサラジュの焼いた
火焔型土器を目にし

南の国でガンダの作った
青銅の剣を目にし

西の国でレシャヴがマディヤムのために
心を込めて作った
ヒスイの勾玉を目にしている。

そうして それらの品々が
私に物語をきかせてくれる。


縄文時代から こんなふうに

優越感と劣等感は続いていて

にんげんの文化というものは

それら にがくて切ないおもいによって

受け継がれてゆく。


          「優越感、劣等感」



7/13/2023, 12:08:13 PM