玉響

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10/8/2023, 5:48:58 PM

「あたしたちきっと、忘れてるの」
 深夜3時、ベランダで煙草を吸いながら、彼女は囁くような声でそう言った。
「何を?」
 僕はそう問いかける。
「浮遊すること」
 彼女は時々、不思議なことを言う。それも唐突に。僕は彼女の言葉の意味をはかりかねて、首をかしげる。そんな僕を見て、彼女は柔らかく笑った。
「…眩しいの。色々なものが。きらきらして、魅力的だから目を離せなくなるけど、ずっと見つめていたら疲れてしまう。」
「浮遊したら、そうじゃなくなるの?」
「地に足をついていたら、帰るべき場所がわからなくなるから、あたしたちは一生眠れなくなる。だから浮遊するの。帰るべき場所を思い出すために。」
「…僕にはわからない」
 そっか、と彼女は頷いた。いいの、と呟く。いいの、それでいいの。
「ねえ、もう眠ろうか」
 煙草の火を消して、彼女は僕に言った。月明かりに照らされて、長い黒髪がきらきらと光っている。
「浮遊しようか、」
 僕は、今そう言わなければならない気がした。彼女が驚いたように少し目を開いて、そして微笑んだ。
「…うん。」
 僕らは浮遊する。これは束の間の休息である。

10/3/2023, 2:40:43 PM

あなたを愛さなかったことを、
わたしはきっと後悔しているのだと思います。
また巡り会えたら、
いいえ、わたしはそれも許されないかもしれません。
あなたの想い出に、綺麗なまま残っていたかったの。
わたしの願いはそれだけでした。
どうか、少しでもわたしを愛してくれていたのなら、
あの言葉が本当だったのなら、
この愚かなわたしを、あなたを愛していたわたしを、
記憶のなかに留めておいてくれませんか。
季節が回って、
時がたって、
わたしたちが全てを想い出と思えたとき、
またあなたに巡り会いたいと、
愚かなわたしは、そう思ってしまうのです。

10/1/2023, 12:36:30 PM

憶えていたいこと。
忘れたかったこと。
夕暮れ時、夜と昼の境が曖昧になる時間。
黄昏のなかに溶けていきたいと、
自分の存在さえも曖昧だと、
あたしはそう思います。
夜は寂しい。
昼はどうにも眩しいですね。
息をするのは得意ですが、
生きることは苦手です。
寂しさも、後悔も、愛も、あたしには分かりません。
浮遊して、曖昧になって、
そうしてあたしは生き抜いていくの。
さようなら、
誰そ彼のあなた。