「こんな噂知らない?
小瓶に手紙を詰めて海に流すと手紙に書いたことが叶うって噂!」
そう言った彼女は僕の前から消えた。
僕は彼女がこんなことを言ってたなと思い出し、手紙を綴る。
僕は彼女のことが好きだった。願わくばもう一度会って想いを伝えたかった。
僕は海へ向かう。
人が居ない時間帯の方が人が少なく恥ずかしくないので、日が昇る前に海へと行く。
手紙入りの小瓶を持った僕は少し後悔していた。
こんな小瓶に頼らなければ彼女に想いを伝えようと考えることもしなかった。彼女が僕の前から消えなければ想いを伝えようともしなかった。
なんて情けないやつだったんだ。
そう頭を抱えていると、
「 くん」
可愛らしい鈴のような声。
間違いない、彼女だ。何故ここにいるのだろうか。
「それ、小瓶?手紙なんて書いたの?」
それよりももっと言うべきことがあるだろうに、彼女は僕に問いかける。
僕はこの手紙に書いたのは――
「彼女が僕の頭の中から出ていきますように。もう二度とこんな苦しい思いをしなくて済むように」
歪む視界
僕の意識は遠のく
僕は何をしていたのだろうか。海辺で気絶する趣味は無かったはずだ。
何か用事があったのだろうけど手持ちが財布と携帯しかないからわからない。
何か忘れている気がするがまぁいい。
思い出せないのなら、
大切なことではないだろうから。
私には大事にしまい込んでいるものがある。
「それ」はいつも私を励ましてくれて、
落ち込んでいる時
私の支えになってくれて、
楽しい時
私がもっと楽しくなれて、
悩んでいる時
私の話を聞いてくれて、
怒っている時
私を落ち着かせてくれる
そんな「あなた」が好き。
ただ、「あなた」への愛は持っていてはいけないものだった。
「あなた」には私以外に愛する人がいる。
「あなた」と私は番にはなれない。
それでも私は
「あなた」への愛を捨てられない。
私だけがずっとしまい込んでいればいい。
それなら捨てずに済むから。
そうして私は
「あなた」に嘘をついて生きていく。
想いを伝えられぬまま、「あなた」が死ぬまでずっと。
窓から眺める景色、いつもと変わらない。
真っ白なシーツ、静かな空間。
私はここから出られない。
人は来る。けれども私を連れ出してはくれない。
籠の中の鳥と同じね。
でも、鳥は飛んでいける。
私は飛べない、だから鳥籠よりも窮屈で退屈。
ここから見える景色、何も変わらない。
少し皺のついたシーツ、騒がしい空間。
私はここから出られない。
今日は人が多い。終わりが近いのね。
私はやっとここから出られる。
けれども自由ではない。
今まで過ごしたこの病室はまるで鳥籠のよう。
私は飛ぶことなく墜ちる鳥。
やっぱり、ここは鳥籠よりも窮屈で退屈ね。
明日、もし晴れたら
水たまりに映ったぼくらと
快晴の空に映えるきみの笑顔で
茹だるような暑さを吹き飛ばせたら。
ぼくはもっとこの夏をきみと、って思うけど
きみはどう思っているんだい?
なんてこと考えながら雨が降る窓辺で
ぼくは一人、てるてる坊主を眺めてた。
もう終わりにしよう
君はそう告げて行ってしまった
僕はまだ目の前のことすら飲み込めないまま
後も追えずに立ち尽くしている
あの頃のあいつらも
挨拶してくれたおじさんも
みんなみんな
誰も君を覚えていない
僕だけが君の存在を今も覚えている
またあの日みたいな笑顔で
話しかけてくれる
そんな君を探すんだ