「私が絵を描くから、あなたは物語を考えて?」
二人で一つの漫画家として今があるのは
夫婦で二つの生きがいを持てたのは
君が言ったそのひと言がきっかけだった。
あの日は、僕にとって激しい涙が降った最悪な日で
君が僕に励ましのつもりで言っただろう君の提案は
棚から牡丹餅のような初めて君と見た虹だった。
夜空を駆ける流れ星のように
誰かの願いを叶えられるなら
私は亡き姉の実らぬ恋を叶えたい。
「姉はあなたの心の傘になりたいと言っていた。
その遺志を引き継いで悲しい時は
姉の書いた詩を読んでください。
きっと、あなたの救いになるでしょう」
姉の書いた詩は人生応援ソングみたいな内容が多いが
たった一つだけ明るい恋物語のような詩がある。
それを姉は死の間際に書いて私に託した。
姉の片想いの人、妻帯者のあの人に届けて欲しくて。
「あの人、カッコいいよね」
そんな友達の一言は氷柱のように私の心に刺さった。
私が片思いをしている「あの人」。
そんなこと言えなくて
つい、「そうだね」だけ言う。
ひそかな思いは墓場まで持っていくしかない。
暗闇の中で私は孤独だ。
目の前に、ぼんやりと懐中電灯の灯りが何かを描く。
何か大きな漠然とした人の輪郭のようなもの。
手を伸ばしても、伸ばしても、届かない。
その輪郭は立ち止まることなく前に進む。
「あなたは何者?
もし姿を見せてくれるなら、
人でも動物でも構わないから私の話を聞いて」
そう叫んだ時。
その輪郭は、その姿は明らかになって振り向いた。
あっ!と思ったら、私はベッドから落ちていた。
ただの夢だったようだ。
そう信じたい、正夢にならぬことを。
今はSNSなどで誰でも気軽にどこでも言葉を送れる、
そんな時代になった。
でも、私は特定の「誰か」ではなく、
「宛先のない誰か」に自分の遺書を届けたかった。
家族はもちろん、友達でもSNSのフォロワーでさえ
この遺書を送りたくなかった。
恥ずかしいのではない。ただ、知られたくなかった。
ボトルメールという、瓶に入れた手紙を海に流して
私は海ではなく、廃墟のビルの屋上で身を投げた。
打ちどころが悪く、私の命は夜の空に舞い上がった。
遺書の行方はどうなったのだろう。
遠く、知らない街に、知らない人に届いただろうか。
もし、遺書を読んでくれた人がいたら
私はきっと、その人の守護霊になるだろう。
なぜなら、あの瓶には私の願いを込めた遺書と共に
私のお守りのエメラルドが入っているから。
石言葉を調べて生前まで大切にしていたお守り。
「宛先のない誰か」というのは、
悲哀に満ちて海に来たかもしれぬ誰かのつもりだった
これから自分は死ぬのに、他の誰かには生きてほしい
そんなの傲慢だと思ってるけど。
「私がつかんだかすかな『希望』を
あなたは『幸福』に変えてほしい」