君が僕のそばにいたあの頃は
僕の愛情は全て君のものだった。
僕の喜びを自分のことのように笑ってくれる。
僕の寂しさを受け止めて冗談を言って笑わせてくれる
僕も君のことを自分のことのように
共に笑ったり、悲しんだりした。
二人でいるあの時間がダイヤモンドの原石だったとは
到底思えない。
君は最期に言った。
「私たちの思い出をもとに小説を書いて」
僕なんか詩でさえ書いたこともないのに
どうして小説なんか。書けるわけがない。
そう言おうとしたら、君は精一杯の声で言った。
「あなたなら書ける。
私はあなたの優しさが好きなの。
人のことを第一に考えられるあなたなら、
きっと私のできなかったことを全うできると信じてる」
そう、君は小説家だった。
あまり世には知られてないが、ファンレターもある。
君の遺志を受け継ぎ、
君とは違う自分なりのやり方で
僕たちだけの物語を書くことにした。
僕の愛情は今、君との物語に注がれている。
この小説はダイヤモンドになる。
そう思って原石であるあの思い出たちに
小説という磨きをかける。
いつかきっと誰かに読んでもらえると信じて。
けんか別れではなければ別れても恋の微熱は残る。
二人の間にものすごく楽しい思い出があって
一度でも、ものすごく激しいケンカの後でも
それを機に前より心を寄り添えられれば
別れの一言が
単なる「好きな人ができた」では微熱は続いてしまう
解熱剤は相手の「復縁したい」より
それを癒してくれる「君しかいない」という愛言葉。
そんな安易な解熱剤など存在しないけど
やっぱり微熱は
相手を忘れるかそれ以上の恋を見つけるかまで
ずっと残ってしまう
冬空の太陽の下で日向ぼっこをする君が
子猫のようで愛おしかった。
もう一度会えるなら
その時も僕はあの日の真似をしたい。
あの時できなかった愛情を行動で示したい。
中学の家庭科の授業で編み物を習った。
かじった程度だから、マフラーを編んで終わった。
「もう、やることはない」
そう思っていたのに、
人生って何が起きるかわからない。
人生で失敗して心を病み、
試行錯誤の末、療養に行き着いた先が編み物だった。
偶然、母親が手芸が得意だったのもあり、
かぎ針編みから始め、中学で習った棒編みにも再挑戦
「家にいるだけでは気が滅入るから、教室に行こう」
そう言われて何となく編み物教室に通い始めた。
一番最初にかぎ針編みのベストを編み、
次に棒編みのセーターを編んだ。
さすがにセーターとなると
前身頃、後ろ見頃、袖二つ。の四つのパーツを編み、
パーツをつなげて
袖口や身頃の裾を編まなければいけない。
先生や先輩方の力を借りて半年くらいかけて完成した
そのセーターはとても気に入っていて
特別な日にだけ着ている。
今はタンスの奥で眠っているが、私の宝物。
今は編み物よりも
あの頃できなかった文章書きと読書を楽しんでいる。
私は母親と違って不器用だし、
もともと本が好きだから文章に触れる方が向いている
今になっても編み物には助けられたと思う。
あの頃は夢中で編み物をやっていた。
大きなミスをすると投げ出したくなる時もあったが
今思えば自分にとって大事な心のリハビリになった。
夢の中で私はどこかに向かって空を飛んでいた。
ハンドルを取られるような強い風。
しかし、低空飛行で飛んでいるこの空は限りなく青い
明るくて太陽の日差しが眩しい。
心地よい旅だ。
ガサっ
と何か大きな音がしたと同時に
私は突然、自分の翼をコントロールできなくなった。
翼のどこかに痛みが走る。
私はどんどん力尽きて地上に落ちていく。
ドンっ
地面に落ちたときのような鈍い音ではなく
誰かに受け止めてもらったような優しいドンっ。
失いかけた意識を取り戻しながら
うっすら目を開ける。
人間の男だろうか。
髪は短髪で目を細め優しく微笑んでいる。
私はその人の温かい両手の中で受け止められている。
見覚えはないけど、
聞き覚えのある声でその人は言った。
「大丈夫だよ。俺がそばにいるから」
その声だけがどこかひんやりとしていた。