一つのイガの中で栗である僕たちは
向かい合わせで住んでいる。
与えられた家のようなイガの中で
笑いながら話をしたり
どうでもいいケンカをしたり
慰め合ったりした。
人間によってイガをむかれたあの日
僕たちは離れ離れになった。
「誰かの糧になるなら私たちは生きてきた意味がある。
私は幸せだった。あなたとの暮らしは私の栄養だよ」
君は人間に連れていかれる間際に笑顔でそう告げた。
僕は君の言ったあの二言を自分の糧に変えて、
栗という自分の役目を果たすことを心に決めた。
誰でも挫折の一度や二度なんてザラにあると思う。
私は自慢にしたくないくらい、挫折してきた。
いじめられて心を殺され、
失恋して自分の思い上がりに悔いて、
誇りある仕事を奪われ、居場所もなくし、無職に。
そんなことばかりで
涙で広い湖を作り、やるせない気持ちを沈めていた。
そんなことでがあっても私は生きてる。
自分を心配してくれる人がいる。
自分を楽しませる言葉がある。
自分の好きなもので表現して自分を魅せられる。
だからこそ、前を向いて
「次」を探しに行く。
だからこそ、やるせない気持ちが
原動力への変え方を教えてくれた。
誰にでも成功は無限に存在すると思う。
君との出会いは海の家だった。
誰かを待っているのか、
それとも一人で海に来たのか。
理由はわからないが、君は一人だった。
声をかけようか迷ってるうちに、
一緒にいた女好きの友達の亮太が声をかけた。
君はドキッとする。
そして、君は泣いている。
慌てふためく亮太をどけて、俺は君の頭を撫でた。
君は言う、「怖かったの」と。
亮太は必死に謝るが、君は違うと言った。
君はある男から逃げるためにこの海の家に来たらしい。
その男の声に亮太の声が似ていたのが
君を恐怖に陥れてしまった。
俺たちは君を匿うために俺の家に連れて行った。
事情を聞くと俺は条件付きで君と付き合うことにした。
条件。
それは、俺の妹として生まれ変わったことにすること
さよならを言う前に君に渡したい物がある
それはミニチュアの本
何かに行き詰まった時はその本を開いてみて
たった一言の「悲し涙はサボテンの花を咲かせる」が
君にも奇跡を起こす道標になるから
鏡の向こう側に行ったらどうなっているのか。
ふと考えたことがある。
しかし、鏡に映っているのは今の私の偽物。
その偽物が実はいないはずの双子のような人ならば
私は彼女に「入れ替わりたい」と誘ってみる。
彼女にとってこちら側の私は、鏡の向こう側だ。
だから、自分と同じ考えを持っているなら好都合。
文字や物が反転して見える世界は、
どこまで反転するのだろう。
人の恋心も逆ならば、私は向こう側の彼を探そう。
思いがけない世界を向こう側の私は楽しんでいるから