「好きだ。」
心の中だけに留めていたつもりの言葉が溢れてしまったことに気がついたときには全てが遅かった。
きゅっと閉まる喉。ぶわっと湧き上がる汗が粟立つ背中を伝う。
「いや、ちがっ.....!」
弁明しようも出てしまったものはもうどうしようもない。頭も舌もうまく回らない。呆けていた顔も次第に意味を理解したらしく、瞬く間に紺碧の瞳が見開かれた。
「そうじゃない、そうじゃないんだ......!」
聞いてくれ......!
声に出すたびに不利な状況へ追い込まるというのに、そうせずにはいられなかった。
「……ぃ」
ぼそり、呟かれた声。
その冷たい響きに部屋中の時が止まったように感じた。
「汚い…」
今度ははっきりと放たれた言葉。
ああ、終わってしまった。
そう実感すると共に射抜かれたような痛みが胸に走る。
それなのに、拒絶された以上の爽快感があるのも事実だった。
「すまない」
それでも好きなんだ。そう懺悔すれば、悲しげな瞳とぶつかる。
「なんで謝るんだよ」
さっきの言葉を吐いたとは思えないくらいまるで振られたのはそっちみたいな涙声。見れば海のような瞳からポロポロと雫が溢れている。
「だって、汚いんだろ?」
そう言いながら目と鼻を拭ってやると、しゃくりあげながら首を横に振る。
じゃあ一体なんなんだ。
いろんな感情を押しのけて困惑していると、涙ながらにやつは口を開いた。
「アンタはそんなにも綺麗なのに…オレは、…..」
いつも調子に乗ったようなことばかり言うくせにどうしてこういう時に限ってこいつはこんなにもいじらしくなるのだろう。
思わず抱き寄せたあの日の温もりを自分は一生忘れることはないだろう。
お題【あの日の温もり】
────
もしかしたら続きか、前日談つくるかも。
「So cute!」
聞こえた声に振り向くと、その先にはエキゾチックな顔立ちの親子連れがいて、まるで映画のワンシーンのような光景に開いた口が塞がらなかった。
ちょうど私が覗いていたディスプレイの服の隣にある子供服の色違いを着て、ブロンドの少女はくるりくるりと父親らしき男性に見せびらかしている。白いシフォン生地を揺らしている姿は羽が生えていれば天使と見間違うようだ。
さっきからかわいいと浴びせるように声に出している父親は長身と顔立ちからは普通想像できないほどに目元を綻ばせていて、海のような深みを持つ碧玉は思わずどきりとするほどに美しい。
ずっと見ていたかったが、時間を思い出して渋々ウィンドウの前を片付ける。
いいものを見たな、と店へ戻るとどうやらオーナーの機嫌がすこぶるいい。美形は表情がわかりやすいというが本当にそうだと思う。
「さっき娘が来ていてね」
ふと、オーナーの顔立ちと髪色に先ほどの親子連れを思い出した。彼の娘さんは10歳くらいだ。ちょうどあの親子もオーナーとその娘さんと近いかもしれない。
「へえ、奇遇ですね。さっきそれくらいの子がお父さんと一緒に来てましたよ」
たしか白色の、ディスプレイにある服を着てました。
「ああ、それがうちの娘だよ。」
へ......?
じゃああの男性は…と目を丸くしていると、
「Hey!」
店の外からまたあの声が聞こえた。
ドアの隙間から長身と天使が満面の笑みで顔を出していた。
「今日は早く帰ってこいよな!」
お題【cute!】
───────
多分エセ日本。この三人は色々あって一緒に暮らしてる。娘さんはどっちの子か想像に任せます。
私は今の歳の半分の頃、「今より最低なことは起こらないはずだ」と思っていた。
きっと大人になればそう、全てが好転するはずだ、と。
そのための努力は惜しまなかったし、自分に合わないことだっていくらでもした。
しかし、最終的に残ったのは自身に対する無力感と足掻いたところでどうにもならないという無気力感だ。
私はこんなはずではなかった、とチープなことを言いたいわけじゃない。
夢を見ている間はいつだって楽しい。
いつかの私もきっと最悪な状況で夢を見ていた。
それは今でも変わらない。
私は夢を見ている時だけは自分を愛せている気がしているのだ。
実際、私はこんなにもあべこべながらも文字を起こす、という手段だけは手放せないでいる。
ただ何も残らなかったような現状に昔日と他人の上部を見比べては罪悪感が勝つだけで、
その先に繋がるまだ見ぬ景色に怯えているだけで、
それ故に自分への愛着を完全に断ち切ってしまうのでは、と思うだけで、
それだけのことに私はいつも身がすくんでしまう。