聞こえし羽搏きこそ 福音である
穢れこそ悪と 断罪の鐘は鳴る
芽吹く命は 与えられし祝福
新緑の如き産声に 喇叭の音が響く
玲瓏たる声は告げる
希うは足掻き それこそ運命
這いながらも生きることが命と
天より降りしきる 階よあれ
地に満ち足りて栄光と為す
人はそこに約束の最果てを見出すだろう
称えよ 讃えよ 其は偉大なる父である
夕焼けに隠れた君の顔が
真昼の映画のように思えて
きっとここにいるのは影
光を置き去りにしたように
巻き戻らない秒針に目を伏せる
つくりものめいた月のように
朝露もまた 移ろうのだろう
そうしてまたひとり
君のいた朝を迎えて 惑う
世界の端にふれるように そっと
花の咲き乱れる草原 優しい風の吹く日
太陽のような笑顔な眩しくて
曇天の下 硝煙が立ちのぼる
悲鳴が 怒号が 祈りが 逃避があった
嗚呼 世界はこんなにも醜く美しい
炎が揺れて 命は潰え
路地裏に打ち捨てられた 小さな太陽
虚ろな陽は 何れ楽園をみる
指切りを交わした 幼い日の約束
燃えて 灰になって 風にさらわれて
何処かで聞こえる鈍い鉄の音
おわりを知らせる鐘を聴きながら
そっと目を閉じた
繰り返し 曖昧な輪郭をなぞって
振り返った先の影法師
泣いているのか 笑っているのか
怒っているのか 悲しんでいるのか
朧げな薄氷にそっと触れるように
埋まらないパズルの欠片を探すように
巡って辿って躓いて 見えないふりをする
脈打つ心臓を描くように
雨音叩く窓の向こうに目を伏せて
水煙にほどけた夢を見る
おもちゃ箱に眠る ちいさないのち
いつしか忘れ去られて 気付けばごみになり
お気に入りのあの子だって 遠い記憶の彼方
ほこり積もったおもちゃ箱
さびついたあの子がじっと見ている
古ぼけた記憶の一ページ セピア色の夢を見る
ガラスのくつはひび割れて
王子様は棺の向こうでわらってれ
しあわせの終わりは 土のしたにかくれてる
あまざらしのおもちゃ箱 傘のなかから見下ろして
まばたきひとつ 走り去る
きっと夢は もうみない