風が吹き、とても気持ちがいい。家のカーテンが揺れ、急に胸が苦しくなった。ここにはいないキミの香りがした。忘れようとしたのに…思い出さないようにしていたのに…これからまた、前へ歩き出そうとしているのに…
また、風が吹いた。キミの香りが残る。髪の長いキミの香りが…やっぱり、どうしても忘れられない…
「会いたい…キミに会いたいよ…」
どんなに願っても届かない。今日吹く風がとても憎らしい…ボクの心をいつまでも騒 (ざわ) つかせるんだから。
眠りについた。身体が沈み込み、久し振りにぐっすり眠れそうな気がする。なんて心地良いんだろう…意識が遠のいて眠りの波にのまれていく。
浅く、浅く、深く、深く、より深く、沈んでいくのが分かる…水の深いところへ沈んでいく。このまま、沈んでいくのか…夢の中へ誘われていく。
ふと香りを感じた。今までに感じたことのない…でも、嫌ではない。ただ、懐かしくて何処かで感じたことあるような香り。
何故か子どもの頃を思い出す。傍には家族がいて、周りにはたくさんの人がいて、そこには食べ物や飲み物、いろんな香りが混ざっている気がした。楽しかった記憶、このまま時間が止まればいい…なんて考えてしまう。
一瞬、我に返った。そこに人がたくさんいて、食べ物や飲み物を持ち、その状況をスマホに撮っている様子があった。遠くから祭囃子が聞こえてくる。そこで気付いた。仕事ばかりだったから分からなかったんだ、私。
「今日、お祭りだ…」
自分の目の前にまだ歩いたことのない道がある。その道を歩く為の一歩が出ない。「恐い」と思う自分と「興味」があるという自分が半々にある。恐い、歩きたい、恐い、歩いていきたい…
「おいで、一緒に行こう」
誰かが手を差し伸べてくれた。でも、その差し伸べてくれた手を握るのも恐くなった。どうしよう…
「大丈夫。さぁ、行こう」
もう、自棄 (やけ)だった。勇気を振り絞って手を伸ばした。触れた手は温かかった。恐がっていたのが嘘のように薄れていき、手を差し伸べてくれた人と一緒に歩き出した。これから何が待っている?
遠くから声が聴こえる…その声のする方へ歩いていく。でも、違う方向からも声が聴こえる。僕はどうしたらいい?ただ、声のする方へ近付いていくしかない。
微かな光が僕の目の前にある、そこから声がする…両手でその光を包もうとした瞬間、その光と声が消えてしまった…
そのとき、僕は目を覚ました。部屋が明るい…
「起きて。もう、朝だよ。」
『…うん。(はぁー、夢だったんだ。)』
「どうしたの?」
いつもの君の声。夢で聴いたあの声はいったい誰だったのか…もし、君の声だとしたら…少し不安になった。夢で聴いた声が君じゃなく別の人でありますように。そう願うしかないのかな…?