「終わりにしよう」
「もう終わりにしよう、頼むからもうやめさせてほしい。これ以上隣にいられない。」
泣きそうな顔でそんなこと言われたら、嫌だ、なんて言えなくなる。
好きだと言って君が離れていってしまったら、なんて考えて、友達が精一杯の関係だったのに。
友達ですらいさせてくれない?
あんなに楽しかったのに、君はその間苦しんでたの?
何で、何で。君に向ける気持ちが重たすぎるから?それとも誤解されたくない人でもできたから?
「こんなに大切に思ってるのに、君の大切な人は自分じゃないなんて、耐えられない。どんなに楽しくても、もう平気なフリして笑えないよ。」
君はそう続けた。涙ももう溢れてしまっている。
それはつまり、もしかして…
「わかった。もう終わりにしよう。そして恋人になって欲しい。君が何よりも、誰よりも大切だから。」
そう、同じ気持ち。確認するように君の表情を見る。みるみる笑顔になる君を抑えきれず抱きしめた。
終わり、って悪いことばかりじゃないんだ。
「夏」
夏の匂いがした。
どんな匂い、と言われても夏の匂いは夏の匂い。
照りつける太陽にバテそうだけど、なぜかドキドキして浮き足立ってしまう、そんな匂い。
海に行きたい。アイスが食べたい。お祭りにも行って、花火も見たい。
そして隣に居るのは君がいい。暑さなんて吹っ飛んじゃうくらい爽やかで、でも太陽よりも明るい笑顔で、笑いかけていて欲しい。
そんな君の手を握って、結局熱くなってしまったとしても…。
「最悪」
今日は最悪な日だ。
たった一度のチャンスだったのに。髪型も、やる気も、何もかも完璧にしたはずだったのに。
自分のせいで、時間をちゃんと確認しなかったせいで…。あの人とはもう二度と会えない。何でこんなミス、今日なんだ。
最初で最後の気持ちを伝えるチャンスだったのに。
「誰にも言えない秘密」
誰にも言えなかった。
まだ恋か分からないし、とか、自分なんか釣り合わないし、とか、そんなことばっかり考えて、本人には愚か、友人にも、誰にも言えなかった。
だんだんと片想いは拗れていって、すれ違うだけで胸はいっぱいになり、目が合った気がするだけで心臓は止まりそうになった。
嫌いな食べ物も、話を聞いてる時の癖も、彼女が通り過ぎてった後の残り香も、全部覚えている。誰かと話していた、彼女の初恋の話だって。
好きすぎて伝えられなかった。
自分は狂ってるんじゃないかって。彼女にとって迷惑なんじゃないかって。
でも本当は、彼女に嫌われるのが、突き放されるのが怖かっただけなのかもしれない。誰にも言えない、なんて勝手な逃避だったのかもしれない。
「狭い部屋」
今日もだめだったなあーと、自分の部屋に入って、荷物を放り投げながら呟く。
帰る前にお手洗いに行っとこう、と小走りで歩いていたら彼女とすれ違った。出会う時はいつも不用意で、髪は乱れて、ぼけっとした顔をしていたに違いない。それに比べて彼女は今日も素敵だった。
いつもコンタクトなのに、今日眼鏡してたんだよ、なんであんな似合うのさ…
好きだなあーと、またこの狭い部屋に呟く。
彼女の好きな所も、彼女のことがどれだけ好きかも、彼女にいつまで経っても話しかけらなれない自分の勇気のなさも、この部屋が1番知ってるだろう。いつか、彼女を呼べる日が来るといいな、なんてね。