手を繋いでいてほしい、あなたと行ける先が地獄だけだとしても
タイムマシーン、今の時代に存在こそしないものの、架空の機械としてこれほどまでに有名なものはないだろう。
時間の不可逆性、人類にとって覆ることのできない世界の理。それを覆す機械。そんなものがあったとしたら、きっと世界はきっと根底から覆ってしまう。
誰かの意思による過去改変、何千通りの未来。何万回目の明日。
もしそんな事が起こり得てしまうなら。
わたしはきっと、たった今目の前で潰えたあなたがいる世界を探し求めてしまうのでしょうね。
海の底で息をしている。
あなただった骨をこの胸に抱いたまま。
ずっとこのまま
そっとふれた世界の片鱗はきらきらと光を放っている。
隣にあなたがいる。それだけで世界が綺麗だった。
色彩が鮮やかで、この目に刻む一分一秒が美しくって。
「■■」
あなたがわたしを呼ぶ。抱き寄せられて、疾うに滅びたはずの心拍がその胸の下で拍動しているのを微かに感じる。
とくん、とくん。刻む鼓動はわたしと同じリズム。こうやってあなたの拍動にふれて生きていきたかった。
「……」
あなたは何も言わない。
きっとあなたも分かっていたのだろう。これがただの夢のなかに過ぎなくて、ふれれば壊れる儚いものだと。
それでも、わたしはあなたの温度に溺れて動けなくなる。
「ねぇ、ずっとこのまま夢を見させて」
あなたとふたり、もう二度と叶わない美しい夢の中で息をさせて。
三日月
世界は三日月の夜の最中、わたしは朝焼けを怖がってひとり息を殺していた。
外はまだ世界が眠りについていて、窓から覗いた微かな月明かりに照らされた街は酷く清く見えた。
夜明けは怖いくせに、夜明け前の空が好きだ。夜明けの限りなく彩度のない橙と夜の青が共存している空は、綺麗で。
それでも、夜明けも朝も好きにはなれなかった。
朝が来ればわたしはまた社会に求められる『わたし』にならなければならない。
夜の間だけは好きなことだけ追って、好きなことだけを書いて、描いて、何もかも忘れて、社会には求められなくとも一番好きな『自分』でいることを許される。
しかし太陽光が支配する昼間ではそれすら許されなくて。
個性なんて必要なくて、わたしがいなくてもその場所に代わりはいる。
だから月と星が浮かぶ夜だけは。本当のわたしでいるの。
好きなものを好きと言って、流行曲に命を救われないまま、好きなものを書いて、描いて呼吸をするの。
数時間だけそれを許してね、三日月の夜夜中。