三日月
世界は三日月の夜の最中、わたしは朝焼けを怖がってひとり息を殺していた。
外はまだ世界が眠りについていて、窓から覗いた微かな月明かりに照らされた街は酷く清く見えた。
夜明けは怖いくせに、夜明け前の空が好きだ。夜明けの限りなく彩度のない橙と夜の青が共存している空は、綺麗で。
それでも、夜明けも朝も好きにはなれなかった。
朝が来ればわたしはまた社会に求められる『わたし』にならなければならない。
夜の間だけは好きなことだけ追って、好きなことだけを書いて、描いて、何もかも忘れて、社会には求められなくとも一番好きな『自分』でいることを許される。
しかし太陽光が支配する昼間ではそれすら許されなくて。
個性なんて必要なくて、わたしがいなくてもその場所に代わりはいる。
だから月と星が浮かぶ夜だけは。本当のわたしでいるの。
好きなものを好きと言って、流行曲に命を救われないまま、好きなものを書いて、描いて呼吸をするの。
数時間だけそれを許してね、三日月の夜夜中。
1/9/2026, 12:23:55 PM