読了ありがとうございました!

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11/8/2024, 3:15:23 PM

意味がないこと。


 鬱になり、筋肉はすべてを解決するという言葉を信じて鍛えてきたが、勇者とかいうストレス激ヤバ職に就けられてド鬱な件。

11/7/2024, 4:03:58 PM

あなたとわたし。





 ひとりの夜はさみしかった。ふたりの夜は共犯で、三人の夜は冒険に終わり、四人の夜は探偵が死んだ。五人の夜は宴だった。



 ミステリー研究会に入っているあなたとわたしは、ほかの部員といっしょに無人島の別荘に遊びにきていた。

 ひどい二日酔いで目覚めた朝、長谷部部長がわたしのとなりのベッドで死んでいた。
 外部犯に違いないと、戸締りをして、別荘で警察を待とうと言ったのはあなただった。警察に連絡したとあなたは確かにそういった。

 N大学で探偵をしていると有名な先一郎先輩だけが、こんな場所にいてられるかと別荘の外へ飛び出した。
 部長の部屋を外から調べていたらしいが、翌日、先輩は頭部を石で殴られた状態で死体として見つかった。

 隠された地下室を見つけたのが、小説家の家雪しょうこだった。
 死体が散乱する地下をスマホのライトで照らしていた。そんな家雪さんを背後からスコップで殴ったのがあなただった。
 ライトが家雪さんの体の下でこもっている。
 暗闇に包まれた地下であなたが家雪さんを殴る音だけが響いた。
 わたしはいつあなたに殺されるのだろうかと思った。

 あなたがわたしのとなりで部長に毒を飲ませたとき、わたしの酔いは完全に醒めていた。
 あなたがわたしの部屋から先輩の頭上に石を落としたときも、わたしはいつあなたに殺されるだろうかと思っていた。
 素足に飛び散ってきた家雪さんの血を感じながら、次こそはわたしだとわたしはあなたを待っていた。

 あなたはわたしにスコップを渡した。
 家雪さんはまだ生きていた。
 わたしは彼女にトドメを刺した。
 あなたはその場をあとにして、わたしといっしょに部屋で眠ろうとした。わたしの部屋には部長の死体がある。わたしはあなたの部屋に行ってあなたといっしょに寝ていた。あなたは死体のように寝て、ゾンビのように起き上がった。

 わたしはあなたを殺すことになった。
 言いくるめられてしまって、ふたりで死のうと言われた。まずあなたをわたしが殺して、わたしが後を追う段取りになった。

 わたしは元々死にたかったから、べつによかったけど、あなたに殺されたかったのに……なんでこうなったのか……。あなたは直前までわたしを口説きたおしていたが、わたしはあなたの彼らへの復讐やらその発端やらぜんぶ聴き流していたので、なんの話か正直わかっていなかった。
 わたしは言われるがままにあなたが首を吊るのを見た。
 わたしのロープもそこにあった。
 わたしは警察に連絡した。
 警察の到着を待ち、わたしは無人島から脱出した。
 犯人の自殺ということでわたしは無罪放免された。


 一家無理心中からも、集団安楽死サークルからも、無人島密室殺人事件からも生き残るなんて……と七番さんはわたしの自己紹介にドン引きした。

 さっき、あなたがたには殺し合いをしていただきますと、モニターに映る謎の男に言われたばっかりだった。

 わたしは七番さんのとなりに立ちながら、彼女がひとりふたりとデスゲーム参加者を殺し、犠牲を出し、見放し、蹴落とし、裏切り、殺し、殺していくのを見て、あなたはいつわたしを殺すのかと、あなたはいつわたしを突き放すかと、嫌うかと、殺すかと、七番さんを見つめて――。




11/6/2024, 3:23:26 PM

柔らかい雨。





 螺旋階段の踊り場で目を覚ましました。
 眠っている間に雨はどれだけ降ったでしょうか。わたしは足音を鳴らして階段を降ります。朝の青い影が細い手すりについています。

 わたしは階段に住んでいます。住んでいる建物が階段そのものでできています。わたしが二年前にこの塔に入りました。この塔はとても高く、天井知らずです。ぐるぐると昇ってきて、まだ終わりがありません。

 昨日はいつにも増して雨が降ったようでした。
 少し降りたところで階段は水に浸されていて、わたしが寝て起きた踊り場も、数時間後には冠水すると思われます。

 この水はただの雨水ではありません。わたしを上へ上へと追いやる雨水は、二年前からずっと透き通っています。なにを落としても、だれが沈んでも。

 わたしは螺旋階段の踊り場で睡眠を取り、踏み板に座って本を読み、ときどき現れる窓にもたれ、滅んだ世界を見て生きています。

 雨は一日として止むことはありません。
 塔にてっぺんはありません。
 見上げると次の踊り場の窓から朝日が差し込んでいます。ここは一体どこなのでしょう。

 外では小雨が降っています。
 わたしは石の壁を撫でながら階段を上ります。窓の外を見てみます。太陽が水平線の向こうにいます。ここはどこなのでしょう?
 きらきらと小さな雨粒が太陽に光って落ちていきます。

 窓から身を乗り出して、飛び降りるつもりでわたしは下を見ました。
 そこには、陸も海も底もなにもなく、ただただ、透明な水と石の塔の肌がはるかに続いているのでした。

11/5/2024, 3:34:58 PM

一筋の光。


 くそっ……ほかに打つ手はないのか! ほかに、魔道具研究部の廃部を阻止する方法は、ほかに――。
 唇を噛み締めた、そのときだった。閉め忘れていた部室の扉からあの男の声が滑りこんできたのは。
「――お話は聞かせてもらいましたよ」
 おまえは……!

11/4/2024, 11:21:46 AM

哀愁漂う。



 まずわたしがはじめに言いたいのは、わたしが地元に帰ったのは三年ぶりだったということ。
 地元のイオンに久しぶりに行ってみて、知り合いと会うことを考えなかったかというと嘘になること。
 でも、いくらなんでも、一番会いたくない人に、よりにもよって会ってしまうとは思わなかったこと。

 元カノは昔わたしが置いていったパーカーを着て、イオンの野菜売り場でカートを押していた。
 三年も前なのに。そのパーカー。わたしが置いていったものは、全部捨てていいって言ったのに。
 彼シャツ、じゃないけど、そんな感じ。自分の服を着ている、カノジョを目撃! って、そんな気分。
 目撃したところでなにかできるわけでもない。

 元カノはわたしに気付くことなくシャインマスカットの並ぶショーケースを覗き込んでいる。
 結局シャインマスカットを手に取れることなく、おつとめ品を目指すおばさまに押しやられて、日用品が置かれた陳列棚の向こうに流れて行く。

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