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柔らかい雨。





 螺旋階段の踊り場で目を覚ましました。
 眠っている間に雨はどれだけ降ったでしょうか。わたしは足音を鳴らして階段を降ります。朝の青い影が細い手すりについています。

 わたしは階段に住んでいます。住んでいる建物が階段そのものでできています。わたしが二年前にこの塔に入りました。この塔はとても高く、天井知らずです。ぐるぐると昇ってきて、まだ終わりがありません。

 昨日はいつにも増して雨が降ったようでした。
 少し降りたところで階段は水に浸されていて、わたしが寝て起きた踊り場も、数時間後には冠水すると思われます。

 この水はただの雨水ではありません。わたしを上へ上へと追いやる雨水は、二年前からずっと透き通っています。なにを落としても、だれが沈んでも。

 わたしは螺旋階段の踊り場で睡眠を取り、踏み板に座って本を読み、ときどき現れる窓にもたれ、滅んだ世界を見て生きています。

 雨は一日として止むことはありません。
 塔にてっぺんはありません。
 見上げると次の踊り場の窓から朝日が差し込んでいます。ここは一体どこなのでしょう。

 外では小雨が降っています。
 わたしは石の壁を撫でながら階段を上ります。窓の外を見てみます。太陽が水平線の向こうにいます。ここはどこなのでしょう?
 きらきらと小さな雨粒が太陽に光って落ちていきます。

 窓から身を乗り出して、飛び降りるつもりでわたしは下を見ました。
 そこには、陸も海も底もなにもなく、ただただ、透明な水と石の塔の肌がはるかに続いているのでした。

11/6/2024, 3:23:26 PM