あなたとわたし。
ひとりの夜はさみしかった。ふたりの夜は共犯で、三人の夜は冒険に終わり、四人の夜は探偵が死んだ。五人の夜は宴だった。
ミステリー研究会に入っているあなたとわたしは、ほかの部員といっしょに無人島の別荘に遊びにきていた。
ひどい二日酔いで目覚めた朝、長谷部部長がわたしのとなりのベッドで死んでいた。
外部犯に違いないと、戸締りをして、別荘で警察を待とうと言ったのはあなただった。警察に連絡したとあなたは確かにそういった。
N大学で探偵をしていると有名な先一郎先輩だけが、こんな場所にいてられるかと別荘の外へ飛び出した。
部長の部屋を外から調べていたらしいが、翌日、先輩は頭部を石で殴られた状態で死体として見つかった。
隠された地下室を見つけたのが、小説家の家雪しょうこだった。
死体が散乱する地下をスマホのライトで照らしていた。そんな家雪さんを背後からスコップで殴ったのがあなただった。
ライトが家雪さんの体の下でこもっている。
暗闇に包まれた地下であなたが家雪さんを殴る音だけが響いた。
わたしはいつあなたに殺されるのだろうかと思った。
あなたがわたしのとなりで部長に毒を飲ませたとき、わたしの酔いは完全に醒めていた。
あなたがわたしの部屋から先輩の頭上に石を落としたときも、わたしはいつあなたに殺されるだろうかと思っていた。
素足に飛び散ってきた家雪さんの血を感じながら、次こそはわたしだとわたしはあなたを待っていた。
あなたはわたしにスコップを渡した。
家雪さんはまだ生きていた。
わたしは彼女にトドメを刺した。
あなたはその場をあとにして、わたしといっしょに部屋で眠ろうとした。わたしの部屋には部長の死体がある。わたしはあなたの部屋に行ってあなたといっしょに寝ていた。あなたは死体のように寝て、ゾンビのように起き上がった。
わたしはあなたを殺すことになった。
言いくるめられてしまって、ふたりで死のうと言われた。まずあなたをわたしが殺して、わたしが後を追う段取りになった。
わたしは元々死にたかったから、べつによかったけど、あなたに殺されたかったのに……なんでこうなったのか……。あなたは直前までわたしを口説きたおしていたが、わたしはあなたの彼らへの復讐やらその発端やらぜんぶ聴き流していたので、なんの話か正直わかっていなかった。
わたしは言われるがままにあなたが首を吊るのを見た。
わたしのロープもそこにあった。
わたしは警察に連絡した。
警察の到着を待ち、わたしは無人島から脱出した。
犯人の自殺ということでわたしは無罪放免された。
一家無理心中からも、集団安楽死サークルからも、無人島密室殺人事件からも生き残るなんて……と七番さんはわたしの自己紹介にドン引きした。
さっき、あなたがたには殺し合いをしていただきますと、モニターに映る謎の男に言われたばっかりだった。
わたしは七番さんのとなりに立ちながら、彼女がひとりふたりとデスゲーム参加者を殺し、犠牲を出し、見放し、蹴落とし、裏切り、殺し、殺していくのを見て、あなたはいつわたしを殺すのかと、あなたはいつわたしを突き放すかと、嫌うかと、殺すかと、七番さんを見つめて――。
11/7/2024, 4:03:58 PM