"あなたとわたし"
あなたは光 わたしは影
あなたは動 わたしは止
あなたは温 わたしは冷
あなたは"生" わたしは"死"
正反対に見えて同じかもしれない。
疎まれること、悲しませることが多い私でも、いつかあなたのようになれるでしょうか。
幸せにすること、笑顔にさせることが多いあなたでも、私のようになることがあるのでしょうか。
あなたがいるからわたしがいて、わたしがいるからあなたがいる。のかもしれない。
わたしはここにいます。また、泣かせてしまいました。でもこの子には泣いてくれる方がいたのですね。
あなたはどこにいますか。また、笑顔にできていますか。わたしがその子のもとへ行ったとき泣いてくれる方がいることを願います。
"柔らかい雨"
「人間風情が…」思わずそんな言葉をこぼしてしまった。
ああ、ああ、こんなにもきれいな山を汚い足で踏み荒らしおって。雑草という草はない、と言っていた人間も確か少し前までいた気がしたのだが…。
踏み倒された一輪の花に自身の霊力を少しばかり注いでいく。しかしなんとか体を起こすことができるようになったものの花はしおれたままだ。ここ最近雨が少なかった影響だろう。どうしたものか。
「よお、白面金毛九尾の狐♪」
後ろから声がした。振り返らずとも声の正体なぞわかりきったものだが。
「…天狗か。貴様にそう呼ばれても皮肉にしか聞こえぬ。」
「何だよ、つれねえな。で?まぁた花助けてんの?飽きないねえ」
天狗は器用に木の枝から枝へと跳び移って近寄ると、先程まで見ていた花を覗き込む。
「ふーん、あれ?でもしおれちゃってんじゃん。」
「ああ、しばらくは雨も少なかったからな。」
自然の物は自然のままにしておくのが良いのだろうが、人間どもに踏み倒されてしまったこの花にぐらい慈悲を与えても構わないだろう。しかし…本当にどうしたものか。狐の霊力では雨を降らせることなど不可能………いや、それが可能なやつがここにいるではないか。
「おい、天狗。貴様、確か我に借りがあったな。」
「はぁ?おいおい、いつの話だよ、そりゃあ」
「283年前だな。貴様に幻術をかけてやっただろう。」
「ああ〜…そんなことがあった、ような?相変わらず化け物並みの記憶力だな。」
「化け物だからな。そこで、貴様に借りを返す絶好のチャンスを与えてやろう。」
「『雲を呼べ』だろ?しょうがねえな。」
天狗は気怠げに羽団扇を取り出すと空に向かって振り上げた。
少しの間空を見上げていると一粒、また一粒と水滴が土へ染み込んでいく。あいつが降らせた雨を讃えるのは癪だが、ここらの植物には甘露の雨となるだろう。
"一筋の光"
あれはいつのことだったろうか。もう思い出すこともできないほど遠い昔、暗闇を一人彷徨っていた。自身の指先までがギリギリ視認できる範囲だ。
暗い、寒い、何も聞こえない。ここはどこなのか。どれだけ歩いても何かに当たることはなく、何かが見えるようになることもない。もう動く気力は尽きてしまった。その場に横たわり、自身を包み込む闇に溶けていく。あぁ、動くことを諦めるのは、思考を放棄するのはこんなにも楽なのか。いっそこのまま、、、このまま、
キエテシマエバイイノニ
気づけば自身の腕すら見えなくなっていた。
その時、遠くの方に一筋の光が指していることに気付いた。疲れ果てたこの体で移動するには気の遠くなるほどの距離だろう。それでも動くことを諦めるより、思考を放棄するより、光の正体を見てみたいと思ってしまった。一度そう思ってしまえば、夢を見てしまえば、諦めることなど到底できなくて。これからも私は歩き、それができなければ這ってでも光に向かっていくほかないのだろう。
"哀愁を誘う"
空を見上げていた。曇っていた。
夕日がきれいと有名なこの場所だが、今日ばかりは訪れる人も少ない。その数少ない来訪者さえ、目当ての景色が見られないことに肩を落とし早々と去っていく。
何十分そうしていただろうか。見上げ続けるのにも首が痛くなり、ふと下を向くと薄い紫が目に入った。特段花に詳しい訳では無いがこの花は知っている。あの子が好きだった花、確か名前は、、、そうギボウシだ。沈黙という花言葉を持つこの花が、あの子にはよく似合っていて、そしてよく似ていた。
-ギボウシ-【Hosta】
朝に開花し、夕方にはしおれる一日花。
耐陰性が高く、明るい日陰や半日影でよく育つ。
花言葉:「落ち着き」「静かな人」「冷静」「沈黙」