「最悪の贈り物」
何もかも失っても、手放せなかった。
あの人からもらった、言葉。
それは原動力でもあるけど、呪いでもある。
二度と会うことが出来ないのに。
私はあの人を探してる。
あの日の言葉を確かめたくて、それに縛られて生きている。
すべて燃えてしまえばよかったのに。
思い出の物だけではなくて、私を縛り付ける鎖も。
次に逢うとき、私は自分の生き方を恥じないでいられるだろうか。
あの人が天に還ったことを、いまだに認められないでいる。
────永遠の花束
「貴女を好きになりたくない」
どうして貴女は私に優しくするの。
散々、貴女と彼との仲を邪魔したというのに。
何も無かったかのように、貴女は私に接する。
直接嫌な態度を取ったこともあるし、ありもしない噂を広めた。
貴女を蹴落として、彼を私のものにするためにしたことは、すべて逆の方向へ進んだ。
彼に断罪され、私は全て失った。
ただ教室の自分の席に座っているだけでも冷たい視線が刺さる。
それなのに、貴女だけは態度を変えない。
どうして。
どうして。
私が憎いはずでしょう?
ザマァって思ってるでしょう?
どうして私なんかに優しく出来るの。
だから、貴女は彼からも、みんなからも、愛されるの?
やっぱり、私、貴女が嫌い。
嫌いだから、これ以上私に優しくしないで。
貴女を好きになりたくないから。
────やさしくしないで
「早めに知った真実」
「あなたが十八になった時に、本当のことを伝えるつもりだった」
そう言って母は頭を下げた。
たまたま見つけた封筒。
なんとなく引っかかるものがあって、つい中身を見てしまった。
人の手紙を見るなんて、してはいけないことだとわかっているはずなのに。
そこに書かれていたことは、俺がずっと抱いていた違和感の答えを出すものだった。
やっぱり、俺と母さんとの間に血の繋がりは無かったんだ。
「別に、責めてるわけじゃないから」
それに、謝るのは勝手に人の手紙を見てしまった俺のほうだ。
「それに、俺にとっての母親は母さんだけだし」
────隠された手紙
「再会は約束しない」
たぶんもう会うことは無いだろう。
そう思ったから、あえて「またね」とは言わなかった。
このままフェードアウトするつもり。
ズルいと思われるかもしれないけど、最後に言いたいことを伝えるのも疲れるのだ。
自然な流れを装って、別々の道へ進もう。
たぶん、もう心はとっくにそれぞれ別の世界にある。連絡を少しずつ減らしていけば良いだけ。
もしもいつかまた、同じ世界で会えたら、その時は「久しぶり」と言おう。
だけど、また昔みたいな関係に戻れるかどうかはわからない。
色褪せることがないと信じていた思い出は、箱に仕舞われて押し入れの奥。
今はまだ、保管しているそれらを手放すとき、連絡先も消すことにしよう。
私が居なくなったとき、連絡がいかないようにするために。
────バイバイ