「罪悪感は最初だけ」
どんな汚い手を使ってもいい。
ほんの僅かな罪悪感を抱くだけで、貴女を手に入れられるのなら。
初めは、そう思っていた。
消えていく罪悪感と、それと引き換えに得るものは、ある種の快楽だ。
貴女が気が付かないうちに、見えない檻に閉じ込めていく。
一生気付いてほしくない。
その一方で、気付いて絶望に塗れた表情を見せてほしいとも思う。
罪悪感なんて、もう抱かない。
────落下
「Plan」
その日その日を生き抜くだけで精一杯。明日どうなるのかも
わからないのに、将来のことなんて、想像したことがなかった。
自分の好きなものすら、わからなかったくらいだ。やりたいことなんて、わかるはずがない。
たとえあったとしても、自分には無理だろうと思っていただろう。
あなたに出会うまでは。
あなたの描く人生設計には私がいて、ふたりで年を重ねていくことは当然のことなのだという。
長生きなんてしたくないと思っていた。
でも今は、可能な限りあなたの側に居たいと思う。
────未来
「変わっていく世界」
「あー、そっか……出会って一年か」
一年前の今日、彼と出会ったことがわかる投稿を眺める。
SNSでマイページの「思い出」をタップすると、「過去のこの日」の投稿が表示されるのだ。
今の私は、一年一日前の私には想像も出来ないだろう。
「君と出会って世界が変わった」
彼はそう言うけれど、ふたりが出会って一番変わったのは私のほうだ。
そして、次の一年後には、もっと私の世界は変わっていく。
──── 一年前
「ひだまりのなかで同じ本を」
好きな漫画や小説が同じだとわかったことから、ふたりはどんどん仲が深まっていった。
やがてふたりは結婚。
子供が生まれ、家を建てる際に、膨大な量の漫画や小説を収納するためのスペースを確保した。
今では小学生の娘と近所の男の子がそこで漫画を読んでいる。
「異性の幼馴染と仲が良いなんて、現実にあるんだ……」
漫画やラノベの世界の中だけかと思ってた、と君が言う。
「いや、まだわからんだろう。今は仲良くても中学生になったらどうなるかわからない」
「まぁ、このままあの子たちが結婚しても私は構わないけど」
「結婚て。まだ小学生じゃないか」
ついこの間まで「おおきくなったら、おとうさんのおよめさんになる!」って言ってたんだぞ。
「十年後にはあの子たち十八よ。十年なんてあっという間よ」
まさか本当に、二十年経たずにあの子たちが結婚するとは、この時は思いもしなかった。
────好きな本
「この関係を維持しているのは」
「あなた達が付き合ってないなんて、信じらんない」
友人たちはそう言うけれど、私達は単なる幼馴染。
登下校も一緒。昼食も一緒。休日も一日に何度かメッセージのやり取りをしているし、たまに一緒に出かける。
肩が触れるくらいの距離で歩いているけど、彼氏彼女の関係ではない。
今日の空は薄い雲がかかっている。
時々、厚い雲で暗くなったり、
雲が切れてうっすら青い空が透けて見える。
あいつに対する気持ちが、長く付き合っている友人としての気持ちなのか、いわゆる恋というものなのか、正直わからない。
ただ、わかっているのは、踏み込むのが怖くて、この関係を維持してるということ。
────あいまいな空