「初めて学校をサボった日」
初めて学校をサボった。
近所の小学校から、運動会のリハーサルの音が聞こえてくる。
窓もカーテンも閉めた部屋のベッド。
布団を頭からかぶっても聞こえてきて、息が詰まりそうになる。
一番落ち着く場所にひとり。
普段は安らげる空間。
外界の様子なんて、知りたくないのに。
眠ってしまえばいいのかもしれない。
だけど、こういうときに限ってなぜか眠れない。
急かされるメロディーが頭の中にこびり付いて離れなくなりそうだ。
こんなことなら、這ってでも学校に行けばよかったのだろうか。
何も知らない頃に戻れたらいいのに。
明日なんて来なければいいのに。
アップテンポな曲に合わせて、まわる。
胎児のように体を丸めて、嵐のような音が通り過ぎるのを待っている。
────天国と地獄
「月に一度の」
私は三日月が綺麗な夜に生まれたそうだ。
だからだろうか?
月に見守られている気がして、心の中で話しかけてしまう。
悲しいこと、悩み、嬉しいこと。
家族にも友達にも、そしてあなたにも言えないことを、月は知っている。
あなたの住む街は、ここよりも煌びやかなところだから、星は見えないかもしれない。
だけど、月なら雲に隠れてなければ見えるでしょう。
月は何も言わないけれど、きっとあなたのことも見守ってくれるはず。
月に手を伸ばす。
届かない指先で、あなたへのメッセージを紡ぐ。
日に日に期待に膨らむように、満ちていく。
この月が満ちて丸くなる頃、やっと会える。
────月に願いを
「『泊まっていけよ』と言えたなら」
君を引き留める理由を探す。
ネットで雨雲レーダーを何度も確認する。
強くなっていく雨音に合うBGMを探し、ネットの海を彷徨う君。
他の人たちには悪いけど、このまま降り続いてほしい。
どういう言い方をしたら、自然な感じで君を留めておけるのだろう。
下心満載だけど、それを感じさせないような……
どうか、あと少しこのまま降り止まないでほしい。
窓を叩く音は強くなって、沈黙を塗り替えていく。
────降り止まない雨
「タイムスリップ」
もしもタイムスリップ出来るとしたら、いつの時代、どこへ行くか。
私は、あの頃の私に会いに行く。
「そんなに怖がらなくてもいいんだよ」
そう伝えたい。
一歩踏み出せず、足踏みして遠回りばかりしていた私。
未来の自分がタイムスリップしてきて、これから起こる事をすべて教えてくれればいいのに……
そう思っていた。
だから、会いに行くよ。
だけど、これから起こる事すべてを教えることはできない。
あぁでも「怖がらなくていい」というアドバイスすら、未来のことを教えてしまうことになるのかも。
どうなるかわからないと不安になりながらも、必死になって飛び込んだ。
あの一歩が、今の私に繋がっている。
あの時、勇気を振り絞ったから、私は変わることが出来た。
やっぱり、タイムスリップしても陰から見守るだけにしよう。
誰に導かれたわけでもなく自分で決めて踏み出した結果、私はここにいるのだから。
────あの頃の私へ
「策略」
まず、君の友達を味方につけた。
俺のような一見チャラく見える男が、好きな女の子だけを一途に想い続けている姿を見せると、大抵の女子は味方になってくれるのだ。
次に、君の家族を味方につけた。
これは簡単だ。なんせ俺と君は幼馴染。
知らない子よりも昔から知っている子の方が、親も安心するだろう。しかも親同士も仲が良いのだから。
もちろん、周囲の男たちにも、君への想いは隠さなかった。
明らかに君を狙っているであろうヤツは威嚇したし。
まぁ、君の見ていないところで色々やったけど。これは墓場まで持って行く秘密だ。
今、ふたりきりなのも、偶然なんかじゃない。
たとえ今夜、堕ちなかったとしても、別の作戦を練るだけだ。
君はただ、頷けばいい。
────逃れられない