「タイムスリップ」
もしもタイムスリップ出来るとしたら、いつの時代、どこへ行くか。
私は、あの頃の私に会いに行く。
「そんなに怖がらなくてもいいんだよ」
そう伝えたい。
一歩踏み出せず、足踏みして遠回りばかりしていた私。
未来の自分がタイムスリップしてきて、これから起こる事をすべて教えてくれればいいのに……
そう思っていた。
だから、会いに行くよ。
だけど、これから起こる事すべてを教えることはできない。
あぁでも「怖がらなくていい」というアドバイスすら、未来のことを教えてしまうことになるのかも。
どうなるかわからないと不安になりながらも、必死になって飛び込んだ。
あの一歩が、今の私に繋がっている。
あの時、勇気を振り絞ったから、私は変わることが出来た。
やっぱり、タイムスリップしても陰から見守るだけにしよう。
誰に導かれたわけでもなく自分で決めて踏み出した結果、私はここにいるのだから。
────あの頃の私へ
「策略」
まず、君の友達を味方につけた。
俺のような一見チャラく見える男が、好きな女の子だけを一途に想い続けている姿を見せると、大抵の女子は味方になってくれるのだ。
次に、君の家族を味方につけた。
これは簡単だ。なんせ俺と君は幼馴染。
知らない子よりも昔から知っている子の方が、親も安心するだろう。しかも親同士も仲が良いのだから。
もちろん、周囲の男たちにも、君への想いは隠さなかった。
明らかに君を狙っているであろうヤツは威嚇したし。
まぁ、君の見ていないところで色々やったけど。これは墓場まで持って行く秘密だ。
今、ふたりきりなのも、偶然なんかじゃない。
たとえ今夜、堕ちなかったとしても、別の作戦を練るだけだ。
君はただ、頷けばいい。
────逃れられない
「当たり前にあるもの」
未来ほど確かなものなど無いというのに、どうして信じてしまうのだろう。
手を振って、歩き出して、振り返る。
当たり前にあるもの。
それがどれほどの奇跡なのかを、失ったとき、失いそうになるときになって、初めて思い知るのだ。
絶対なんて無いというのに、信じられずにはいられない。
失うこと、消えること、裏切られること。
もしも、万が一、そんなことを想定していたら、きっと何も出来なくなるから。
だけどいつか、当たり前が当たり前ではなくなる日が来る。
その時に笑顔でいられたら良いと、今日もまた明日が当たり前に来ることを信じて手を振るんだ。
────また明日
「透明人間」
「透明人間になりたいって思ったことある?」
スマホを弄んでいる彼女が、画面から目を逸らさずに問いかけてきた。
「あー、あるある」
「ええ……なんで?」
俺の答えが意外だったようで、彼女は俺を見つめながらまばたきをしている。
「なんでって、そりゃ……なぁ……」
「だって、誰からも見えなくなるんだよ。嫌じゃんそんなの」
「だからいいんじゃないか」
「え?」
「あー、いや……」
思わず目を逸らす。
「……なんか、変なこと考えてない?」
「いやいや、変なことじゃないって。それに男ならだれでも一度は考えることだと思……」
「主語大きくない?」
あー、今すぐ透明人間になりてぇ……
────透明
「とてもリアルで長い夢」
こんなことってある?
あなたは、私が「こういう男の人がいいなぁ」って思っていた通りの人。
描いた絵から抜け出してきたような、そんな人。
あまりに理想通り過ぎて、怖くなる。
繋いだ手の感触も、抱きしめられる時のあたたかさも、たしかなものだ。
だけど、すべて夢なのではないか。
とても、とてもリアルな夢。
私のことを、理想の女性だとあなたは言う。
本当に、これはきっと夢だ。
とても、とても長い夢。
どうか、どうか、醒めないで。
現実の私が、何年も何十年も眠っているとしても……
────理想のあなた