「鍵がかかってない檻」
「楽園って、鍵がかけられていない檻みたいね」
君はそう言って、肩にかかる髪を払った。
楽しいことしかない世界。
最高じゃねえか。
「そう?私は怖いけど」
毎日毎日楽しいことばかり。
それに慣れてしまったら、そのうち楽しいことが楽しくなくなってしまいそうで怖い。
外の世界は楽しいことはほんの少し。
楽しいことに慣れてしまったら、もう外に出る気にはならないのではないか。
真面目な君らしい考え方だ。
「なるほど……」
それは、いいかもしれない。
楽園が、鍵がかけられていない檻だというのなら、君を楽園に連れて行きたい。
そうしたら君をそこにいつまでも閉じ込めておけるから。
────楽園
「I miss you」
空が同じなら、きっと空気も同じ。
空気が同じということは、風もまた同じ。
この風が流れ、君の町に届くまでどれくらいかかるだろう。
声も気持ちも、そのまま届けられたらいいのに。
無機質な文字や電気信号を介したら、全部ちゃんと伝わらない気がする。
直に会って話しても、すべて伝わらないこともあるから。
「会いたい……」
零れ落ちる言葉と涙を、風が攫っていく。
────風に乗って
「好きになってはいけないひと」
きっと好き。
好きかも。
たぶん好き。
そう思う時が短すぎて、自分でもわからなくなっていたのだろう。
どういう感情なのかわからないまま、瞬きするよりも短い時間に感じて積み上げてきたものを、分析して言語化することは難しい。
気がついた時には手遅れで、離れたくても離れられなくなっていた。
この関係を崩すことは出来ない。
気がつかなかったことにする、と決める。
たぶん、それが最善。
今あるものを壊したいと思ってしまうほど、好きになる前に。
────刹那
「すべて俺のせいにして」
「何のために生きているのかわからない」
そう言って俯いたままの君の手を取る。
「俺のために生きて」
だから、理不尽なことも、辛いことも、俺のせいにしていい。
俺は君のために生きるから。
「そんなの不公平じゃない?」
見上げる君の額に、口付ける。
そんなことない。
嬉しいことも、楽しいことも、俺のおかげだって思ってくれるなら。
────生きる意味
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「君に伝えたいこと」
自分が何者であるか、とか。
特別な何かになりたい、とか。
そういうことも含めて、ずっと考えて、出なかった答え。
ただ、行き着いたのは「自分が生きている間に、本当の意味での『生きる意味』など、自分ひとりではわからない」ということ。
誰かのために生きるのではなく、本当の意味で自分のために生きて、それが何の意味を持つのか。
世の中にとって、自分はどんな役割を持つのか。
悩んで出てきた答えが正解とは限らない。
その人が生きる意味は、周囲とその人との関係性によって、異なるのではないだろうか。
そう思えるようになるまで、だいぶかかってしまった。
もっと早くこの考えに辿り着ければよかったと思うと同時に、ずっとそれを探し続けることにこそ、意味があったのではないか、とも思う。
まるで年の離れた兄のように俺のことを慕ってくれる君は、ピンと来ないという顔をして聞いている。
わかるよ。自分もそうだったから。
今ならわかる、人生の先輩たちの言葉。
人生は遠回りしたもん勝ち。
うざがられるのはわかってるけど、若い人につい言ってしまう言葉。
自分の存在意義など、生きているうちにはわからない。
だからといって、悩む意味がないわけではない。
悩むこと、そのものに意味がある。
悩んで、足掻け。
────生きる意味
「プリズム」
片方だけでなく、色々な角度から見るんだよ。
あの人はそう言って、色々なモノの見方を教えてくれた。
ヒーローは本当にヒーローなのか。
悪者は本当に悪者なのか。
壁にぶつかった時、異なる意見に納得できない時、あの人との会話を思い出す。
みんなそれぞれ、自分が正しいと思ってる。
その正しさが違うだけ。
────善悪