「チャンスの神様」
もしも神様に会うことが出来たとしたら、訊きたいことも言いたいこともたくさんある。
昔からずっと気になっていることがある。
よく「チャンスの女神は前髪だけ」などと言うが、長さはどれくらいなのか、ということ。
是非見てみたいので、現れてください。
安心してください!
前髪掴まれたら痛いだろうし、そもそも髪の毛掴むとか失礼なので、腕を掴むつもりですので。
こんなこと考えているけど、いざ会ってしまったら、きっと目の前に現れてくれたお礼しか言えないだろうな。
────神様へ
「目視観測」
「東京と大阪以外の全国の気象台では、目視観測が終了し「快晴」や「薄曇」などの観測項目がなくなってしまいました」
ラジオのニュース番組で気象予報士が残念そうに告げる。
快晴が無くなってしまうわけでもないのに、寂しさと同時に時代の流れを感じつつ、思考はあさっての方向へ。
自分の気分が天気に反映されてしまうような能力を持っていなくて、よかったと思う。
ちょっとしたことで、簡単に乱高下する気圧。
他人の言動で朝晩の気温差が激しくなったり、前日との気温差が激しくなったり。
予測できない、変わり過ぎる天気。
夏に雪が降ってしまうかも。
それこそ快晴が無くなってしまうかも、なんて。
見上げた空は、雲ひとつない青い空。
────快晴
「傷口」
ランチの誘いを断って、公園のベンチにひとり。
近くを走っていた小さな子が、転んで泣いている。
「痛いの痛いの飛んでけー。遠くの山まで飛んでけー」
母親がかける、魔法の言葉で泣き止む子供。
今の若いママも使うんだ……なんて思いながら、空を見上げる。
もう声も忘れてしまって、顔もぼんやりとしか覚えていない実の母を思い出す。
新しい母親とは折り合いが悪く、高校卒業と同時に家を出た。まるであの家から逃げるように。
今も、私は逃げている。
あの家からも、今自分が直面していることからも。
傷を治すには、患部の状態をきちんと把握する必要があるのではないか。
そう思うのに、私は傷口を見ることが出来ないでいる。
痛いの痛いの飛んでけ。遠くのお山……は、ここからでは見えない。
────遠くの空へ
「桜の天女」
一番好きな花を、君の人生で一番の晴れ姿に添えることができて本当に良かったと思う。
この一年あっという間だった。
トントン拍子に進んだかと思えばアクシデントが起きたりもしたけど、いつかいい思い出になると信じてる。
満開の桜の下で求婚して、ちょうど一年。
満開一歩手前の桜の前に天女が……
いや、白無垢姿の君だ。
このまま天に帰ってしまったらどうしよう。
そんなことを思うくらい君は綺麗で、泣きそうになる。
────言葉にできない
「膨らむ蕾を愛でる君を見つめる」
まだまだ朝晩は冷え込むが、日中の気温は高くなってきた。
少し霞んだ空。
数週間前までは聞こえなかった鶯の鳴き声。
椿の花が落ち、梅が満開を迎えて、桜の開花も秒読み。
カタクリの花や、あんずの花の見ごろを伝える報道が聞こえてきたら、もうすぐだ。
一番好きな花は桜だといつか言っていたね。
今年も君とその花を見に行くことが出来ることに感謝を。
桜の木を見上げる君。
きっと君は気付いていない。
今、俺がひとつの誓いを立てたこと。
────春爛漫