小絲さなこ

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2/29/2024, 12:49:48 PM

「雪国の小京都」



端にほんの少し雪が残る住宅街から出発し、りんご畑を抜けて進んでいく。
ゆったりと千曲川沿いを走る。
トンネルを抜けるたびに雪の量が増えていく。

ふと気がつくと、窓に白い粒が当たっていた。
その大きさと激しさに、日本有数の豪雪地域──特別豪雪地域に指定されているのだと、改めて思う。

単線非電化のローカル線。
降り立った駅は無人。



母が生まれ育った町。
顔も覚えていないその人の足跡を辿る。

もしかしたら、一緒に見ていたかもしれない景色。


白い。


どこまでも白くて、目を閉じる。




────列車に乗って

2/28/2024, 2:43:58 PM


「月が綺麗ですね」



君は高速バスを使う。
少しでも交通費を抑えて、会う回数を増やしたいから。


駅前のバスターミナルまで徒歩四十分。
ゆっくりと女鳥羽川沿いを歩く。
絡めるように繋いだ手を離すタイミングを迷う。


君と離れて暮らしてから初めて知った。
自分が心配症で嫉妬深いこと。


あと何年何ヶ月。
何度も二人で数えてる。



稜線の向こうにある、二人が育った街へと君は帰っていく。


この先にあるものを、二人で掴むって決めたから、どんなに辛くても頑張れるんだよ。




ひとりきりの部屋。
見上げる月。
君も見ていると信じて送るメッセージ。






────遠くの街へ

2/27/2024, 3:15:02 PM


「ボーダーライン」



まるで蜘蛛の巣に捉われた蝶のよう。
手首を掴まれ、壁に押しつけられている私。
目の前にいる幼馴染の、熱を帯びた瞳から目を逸らす。

今ここで、こいつと唇を重ねてしまったら、たぶんもう幼馴染という関係には、二度と戻れない。



「……こっち向けよ」


手首を掴んでいた片方の手が外されたかと思うと、その手で前を向かされる。
抵抗できない力で。だけど、優しく。


覚悟は、あるの?
もしうまくいかなかったら、きっとそのあと周囲も巻き込んで気まずくなるよ?

そりゃ、小さい頃「おおきくなったら、けっこんしようね」と約束したけど……


「俺だけを見て」


射抜かれて、動けない。


どうしよう。
息って、どのタイミングで止めたらいいの?

もう、目を閉じた方がいい?


お父さんとお母さん、なんて言うかなぁ……

隣に住む、ひとつ年下の男の子と、こんなこと……






そういえば、なんで、こんなことになってるんだっけ?





絡まる記憶の糸を解けないまま、距離は縮まっていく。



睫毛長いなぁ……





────現実逃避

2/26/2024, 2:07:56 PM

「living」



 永遠のものなどないと、君はいつも言っていた。

 楽しい時間も、綺麗なものも、永遠ではない。
 そのかわり、苦しいことも、辛いことも、ずっと続くものではないって。

 それは、救いであり、不安でもある。
 だから信じるために誓うのだと、君は笑った。


 ゆれる炎。
 薪ストーブとソファは魅惑と誘惑の組み合わせ。
 猫のように微睡む君。

 これからもずっと、こんな風に君を隣で見ていたい。

 君は今、夢の中。
 その夢の中でさえ隣にいたいと言ったら、君はきっと呆れながらも「当たり前でしょ」と言うんだろう。

  
 永遠などないと、俺たちは知っている。
 それでも、信じたい。
 だから誓った。

 今も、これからも、きっと生まれ変わっても。



 君が今、ここにいることを確かめたくなって、手を伸ばす。 



  
 これからも、ずっと隣で、同じ気持ちでいてくれるって、信じてる。




────君は今

2/25/2024, 12:22:32 PM

「降水確率30%」





いっそ降ってしまえばいいのに。

持ってきた長傘の出番がないまま、交差点が近づいてくる。

今度会える約束なんて、ない。


いっそ振ってくれればいいのに。

はっきりと言わない貴方。
はっきりと言わないのは私も同じ。

狡さを比べる。


認めたくなくて。
いつだって前向きでいたくて。

「じゃあ、またね」

もう会わないという決意は、私の中でだけ。
振り返らない。








雨音は拍手。

赤い長傘に零れ落ちるものを隠す役を与えて歩き出す。







────物憂げな空


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