肌の焦げる音かと思ったが、それは街路樹の幹の、丁度私より頭一つ高いところで鳴いていた。
彼をやや憎らしく見上げながら、一方でその短い生涯に憐れな思いを馳せていると、私の人生もまるで大差がないような気がした。
寒さを越え、痛みすら感じるあの頃を思い出す。
半年だ。
たかが半年前、私が恋焦がれていたものが、今はどうしようもなく憎らしいのだ。
あの時の私は半年の命だったのだろうか。半年前の私は既に死んでおり、今の私は新しい私に生まれ変わったのではないのだろうか。
ふと思い描いたものに冷笑し、歩き出す。音の主はどこかへ飛んで行った。私はあの者ではない。死んで生まれ変わったのではなく、ちょうど、長い旅を終え、故郷の善し悪しを懐かしんでいるような頃合なのだ。
故に、はじめまして、ではなく、ただいま、なのである。
夏の終わりは、まだ遠い。
「炭酸の泡って、ユラユラしてるところがさ、踊ってるように見えるんだよね。泡が踊ってる、て言うのかな。泡が踊るで阿波踊り。なんちゃって。……それはさておき、君はもうやらないの? 昔やってたじゃん、踊り。踊らなくなった君は、泡踊らず、かな、はは。初めて君と出会った時は、もっと活き活きしててさ、こう、キンキンに冷えたコーラみたいに刺激的だったのに。すっかりぬるくなっちゃったね」
書き上げた時は、期待に胸が弾むようだった。
読み上げた時は、期待と不安で胸がうずいた。
朝になって、手紙を破いて海へ捨てた。
私の心は、波にさらわれて見えなくなってしまった。
いつか、貴方に言われた。
「無いものを強請るより、有るものを大切に」
あれから何十回の8月が過ぎた。
今でも私は、無いもの強請りをしている。
摩擦を避けて生きてきました。
ぶつかることが怖くて、いつも端の方を歩いていました。
死ぬことが怖くて、いつも心は世界の中心に立っていました。
くるしいことが嫌で、ぬるめのお湯に浸かっていました。
手遅れな私に、どうか光を当てないでください。