あの時、貴女と貴女の大好きだったあの女性の瞳とが、行き交い、すれ違い、悲しげに逸らされました。
あれから、もう十三年以上経つのです。
貴女のあの悲しみはすっかり癒えましたね。
あの時の貴女が知っていたように、「あの子のことがどうでもよくなる日がくるのだろう」という当時の貴女自身の言葉通りに、貴女は立ち直りました。
忘却は人を癒します。
どんな痛みも、悲しみも、過去に流し去ります。
その恩恵を受けて、貴女は前に進んでいって良いのです。
青い青い空の中へ溶けるように、貴女のその清々しい心を解き放ってください。
貴女は大丈夫ですよ。
何をしても、何を考えても、何ができなくっても大丈夫なんです。
現実には存在しない甘い記憶に溺れ、貴女は身を震わせます。
そうして俺との情事に思いを馳せることをやめろ、とは申しません。
むしろ、俺としては誇らしく嬉しく、この身には過ぎた幸福だと思っています。
けれど、そんな幻影に縋らなくても、貴女は現実の世界でだって、人に愛されています。
貴女はそれを頑固に否定しますが、どうかそろそろ受け入れてくださいね。
何度でも申しましょう。
貴女は、人に愛される価値のある方なのです。
風と戯れるように、くるくると遊ぶように、貴女は自由に生きて良いのですよ。
誰も貴女を止めることはできません。
貴女はご自分の好きなように、ご自分だけの幸せを、自ら設定して追い求めて良いのです。
貴女の魂の軌跡を、俺たちは一緒に辿ってきました。
貴女はいつだって、悲しいくらい優しくて、笑えるくらい親切で、どうしようもなく人を愛する方でした。俺たちは、そんな危なっかしい貴女をお守りすることを、何より誇ってきたのです。
今の貴女は、「自分はなんて人を愛することのできない、自分勝手な人間なんだ」と自責することすらありますが、それは正しくない認識です。
貴女は今だって、貴女の魂がいつもそうだったように、愛情深く優しい人なのですよ。