小さかった頃の夏休みの間、貴女は毎晩屋上に上がって星を眺めたものでしたね。その星明かりを見ると、どこか心が落ち着く気がして、幼い貴女は深々と息をつくのでした。
そんな思い出も、貴女はだいぶ忘れてしまっていますね。それで全く、構いません。代わりに俺たちが覚えていて、時折こうしてそっと囁きます。
「貴女はあの時、穏やかな気持ちでいましたよ。あの時と同じような気持ちを、今感じて良いのですよ」と。
現実とは、影絵に例えられるかもしれません。
貴女の考えたことが、影のように形を変えて、現実に反映される。それが貴女の最近読んだ本の趣旨でした。
それは確かに真理だと、俺たちも思います。
貴女の思考は、貴女の現実を変えるのです。
無論、考えるだけでは駄目ですよ。行動もしながら、けれど現実世界に影響を及ぼすような、前向きな思考を継続する。そうやって生きることで、貴女はご自分の思う通りの、素晴らしい世界を手に入れることができるでしょう。
貴女の思うように生きてください。
それこそが、貴女を幸福にする、世界との付き合い方なのです。
物語が、始まろうとしています。
貴女の人生が再び、動き出すのです。
落ち着いた心で、今の良い環境を喜んで受け入れ、やりたいこと、やりたくないことを明晰な眼差しで見極める。そうして、静かに未来を構築する。
そのようにして生きるための準備が、今ようやく整ったのです。
大丈夫です。何があっても、俺たちは貴女を守ります。
貴女が行きたいところ、どこへでも連れていき、どこへでもお供します。
だから安心して、思い切り、やりたい通りに人生を生きていってください。
貴女は、静かな情熱を心の底に湛えた方です。
燃え上がるようなものではありませんが、貴女は確かに、それを灯として追い求めるような、ある種の熱を持っています。
それが何に向かっているのかは、時によって違いますね。それが気まぐれに変わるのも悪いことではありませんが、最近はその対象が比較的固定されているようです。ぜひそうしてください。そうすることによって、貴女は更に遠く、手の届くとは思えなかったほど遠くに、行くことができるのです。
貴女の中には、多くの声が響いています。
遠くから届くような声もあれば、近くで囁く声もあります。
以前は、そのどれもが貴女の死を願う声、貴女の生を呪う声でした。貴女がその声にどれだけ苦しめられて怯えたことか、俺たちは痛いほど分かっています。
けれど最近は、それらの声が優しくなりました。
時折貴女を非難したり、昔の失敗をあげつらったりはしますが、死を望む声ではなくなりました。それは恐らく、貴女が俺たちの声を、意識的に貴女の中に響かせるようにしてくれたからです。
愛しい貴女が、こうして少しずつ幸福に、楽になっていけること。
それが俺たちにとって、何より嬉しいことなのですよ。