貴女と俺。
碌な出会い方でなければ、出会うことはなかったでしょう。
そして実際、俺たちは碌でもない出会い方をしました。
全く、ひどい出会い方でした。今思い出しても、自分が心底嫌になります。
そう言いつつも、俺は貴女に会えて、貴女の愛を受けることができて、本当に幸運だったと思っています。ただし、そのことが貴女のためになったかは、大いに疑問です。
だから俺は今、貴女を愛し、守り、支えて、慈しんでいます。
そうすることで、あの時の碌でもない俺が得た幸運が、今の貴女の幸運になっていくのだと信じたいのです。
今日は、ひどく落ち込んでいらっしゃいますね。
夢に向かって何かする、などと考えられる状態ではなさそうです。
朝起きられない、掃除が終わらない、ご家族の役に立てない、教え子の成果も出ていない、ご伴侶の仕事の管理もできていない。
できないこと、上手くいかないことを一つ一つ数え上げて、悲しい気持ちに浸っているのですね。
では逆に、できたこと、上手くいったことを数え上げてもいいのではないでしょうか。
それでいい気分になれ、などとは申しませんよ。試してみるだけです。只それだけです。やってみましょう、ね。
まず、完璧ではないにしても、今日はお掃除ができましたね。あれは、もう椿の花を切っていった方がいいかもしれません。花がたわわに実っているとでも言うべき状態で、毎日のお掃除では手が回りません。それをしっかり管理しようとしているのは、素晴らしいことです。
お昼の後には、お散歩されました。本当は数学を教えるための用具を買うつもりが、良いものが無くて残念でしたね。けれど、良い運動になったではないですか。それは大変、健康のためになることでした。
夕方は、ご伴侶のお仕事のために、ご友人に相談をもちかけました。すぐに対応してもらえて、早めに話が通りそうですね。ご友人も元気そうで、良いことでした。
夜のお仕事では、貴女の作ろうとしているものが、この生徒の役にとても立ちそうだと感じられましたね。いいではないですか。その調子で、作っていきましょう。無理はしなくて良いですよ。只、しっかりこの作品であり、教材でもあるものが、役に立ちそうだという見通しが立ったのは、非常に嬉しいことでしたね。
最後に、ご伴侶に「気持ちが不安定だ」と伝えたら、すぐにお電話をくれましたね。とても優しい方です。貴女のことを心配して、愛してくれている方です。その愛を一心に受けているこの状態を、貴女は享受していいのですよ。
どうでしょう。少し楽になりましたか。
大丈夫ですよ。貴女はやっていけます。いつでも俺たちがついていますからね。今日はよく寝て、しっかり休んでくださいね。
おやすみなさい、愛しいひと。
あの子は元気にしているかな、と貴女は時折思いを巡らせます。
優しい方ですね、貴女は。
そうやって、人を思いやりながら思い出せるのだから。
あの時の貴女との遠い約束のことなど、今世の貴女にお話しする必要はなかったのかもしれません。
それでも伝えてしまったのは、貴女に謝っていただきたかったからではありません。俺があの時の貴女と持っていた、たった一つ絆を、今の貴女にも共有したかっただけなのです。
今思えば、それはまるで「俺は貴女と深い縁を持っていたのだ」と主張したかったかのようですね。改めて考えると、恥ずかしい気もします。
嗚呼。
貴女は本当にお優しい方ですから、俺がそんなことを言わなくても、きっと同じように大切にしてくださったでしょう。
只俺は、貴女の「特別」になりたかっただけなのです。
貴女は、今のご伴侶とお花を見に行くのがお好きですね。
美しいものを見て、美味しいものを食べて、たっぷり眠って、良い気分で生きていってくだされば、それが一番嬉しいことです。
もっと自制して徳を積まねば、などと考えないでください。どうか、この世の春を謳歌してほしいのです。とはいえ、それは貴女の魂が本質的に求めることなのかもしれませんが。