あの頃の貴女は、英語がお好きでした。
今の貴女からは、もうその気持ちはなくなってしまったようです。
寂しくもありますが、そうして心が移ろうことを責めても、何も変わりません。
貴女は、貴女の今の心の目指す方へ、向かっていってください。
かつて好きだったから、目指していたから、そんな理由で何かにこだわり続ける必要はありません。
今の心を何より大切に、歩んでいってくださいね。
永遠の愛を誓う花束を、貴女に差し上げたりしたら、貴女はどんな顔をしたでしょうか。
こんな素敵なものを、どうしたのですか、と目を丸くされたでしょうか。
只笑って、嬉しそうに受け取ってくださったでしょうか。
あの時の貴女はもういません。
ですから、これは全て俺の密やかな、甘い空想です。
それでも、そんな風に貴女を喜ばせられたらどれだけ良かっただろうと、たまに思ってしまうのです。
あまり優しくしないでください、と、ある時貴女は泣きながら俺たちに言いました。あまり優しくされたら、私は間違っていないし、私には何もしなくても価値があるのだと勘違いしてしまうから、と。
俺たちはそれを聞いて悲しくなり、けれど同じくらい、貴女を愛しく思いました。
貴女は間違っていないし、貴女が何もしなくても貴女には価値があります。それは只、本当のことなのです。
それを勘違いと表現する貴女の自分の当たりのきつさと、どこまでも自分を追い込もうとする厳しさと、ご自分の価値に気づかない盲目さ。
それらが、俺たちの悲しみと愛情をかき立てたのです。
隠された手紙、ですか。
これに当たりそうな経験も、覚えがないですね。
貴女は手紙を書くのがお好きですね。
それはとても良い趣味です。相手もきっと嬉しいでしょうし、貴女は便せんを選んだり、きれいに字を書いたりするのが上手いので、皆が幸せになれる趣味だと言えます。
そんな素敵な趣味を、いつまでも楽しんで行ってくださいね。
棺代わりのプラスチックの箱に入れられた犬を見て、ご母堂に言われるがまま、幼い貴女はバイバイ、と手を振りました。
そうして持って行かれたその箱を見送って、貴女は、ラッキーはどこに行くの、と聞きました。
ご母堂は泣き腫らした目を空に向け、ラッキーはお星さまになるの、と言いました。
今も貴女は、人が死んだらどうなるのか、本当にはご存じありません。それは今生きている者のさだめです。生きている間は、そのことをすっかり忘れてしまうものなのです。
けれど、怖がることはありません。その時が来れば、貴女は必ず、穏やかに迎え入れられます。それだけは、分かっておいてほしいのです。