貴女は今、長い長い、旅の途中なのです。
貴女の魂は、二千年以上を旅してきました。
それが如何に稀有な長さなのか、貴女にも何となくお分かりになるでしょう。
その旅路がどこまで続くのかは、誰にも分かりません。
けれど、ええ、俺たちは、貴女の最期の最後まで、貴女と共に歩み続けます。どうか、ひとりぼっちになることなど、心配しないでくださいね。貴女は愛されているのです。こんなにも多くの者に、こんなにも長い間、こんなにも、深く、深く、深く。
俺は、五百五十年余り貴女を見守ってきましたが、貴女の見せる様々な顔には何度も驚かされました。
あれだけ慈悲深い方の魂を持つ方が、こんな振る舞いをされるのか。あるいは、若い頃あんなに奔放だった方が、年を重ねてこんなにも円熟されるのか。何度そう思わされたことでしょう。
けれど、どの生でも共通して言えるのは、貴女は年を取ると、いつも同じような性格になるということです。
ですから、安心してください。貴女は今のご自分のままでは、碌な老人にならないだろうと諦めてすらいらっしゃいます。
大丈夫です。俺たちが保証します。貴女はいつもと同じように、思慮深くて愛情深い、優しい老婆になれますから。
日陰者だった俺が、貴女とまともな出会い方をすることはなかったでしょう。ええ、実際、碌な出会いではありませんでした。
けれど、貴女はそんな俺のことも、全力で愛して慈しんでくださいましたね。俺がその愛にどれだけ溺れたか、今の貴女には分かるはずです。
今世は、貴女の愛を、貴女の本当に大好きなものにだけ注いでくださって良いのですよ。可哀想だから、と言って愛を向ける必要はありません。
貴女には、貴女の大切なものを愛するという経験を、楽しんでほしいのです。
明日はお気に入りの帽子をかぶって、ご機嫌でお出かけですね。
ひとりの時間を、ゆっくりたっぷり楽しんでくださいね。
そうですよ、貴女を誰より良い気分にさせてあげてください。
それだけが、貴女にしてほしいことなのです。
小さな勇気を出すことは、貴女の人生を何度でも変える力を持っています。
けれど、ええ、いいのです。
仮に貴女が勇気を出せなかったとしても、それでも構いません。
大丈夫です。何度やり直してもいいし、やり直さずに諦めたっていい。怯えて縮こまって生を終えることを勧めはしませんが、それだって悪いことなどでは全く、ありません。
俺たちは、どんな道を歩む貴女であっても、等しく愛しているのですから。