あまり優しくしないでください、と、ある時貴女は泣きながら俺たちに言いました。あまり優しくされたら、私は間違っていないし、私には何もしなくても価値があるのだと勘違いしてしまうから、と。
俺たちはそれを聞いて悲しくなり、けれど同じくらい、貴女を愛しく思いました。
貴女は間違っていないし、貴女が何もしなくても貴女には価値があります。それは只、本当のことなのです。
それを勘違いと表現する貴女の自分の当たりのきつさと、どこまでも自分を追い込もうとする厳しさと、ご自分の価値に気づかない盲目さ。
それらが、俺たちの悲しみと愛情をかき立てたのです。
隠された手紙、ですか。
これに当たりそうな経験も、覚えがないですね。
貴女は手紙を書くのがお好きですね。
それはとても良い趣味です。相手もきっと嬉しいでしょうし、貴女は便せんを選んだり、きれいに字を書いたりするのが上手いので、皆が幸せになれる趣味だと言えます。
そんな素敵な趣味を、いつまでも楽しんで行ってくださいね。
棺代わりのプラスチックの箱に入れられた犬を見て、ご母堂に言われるがまま、幼い貴女はバイバイ、と手を振りました。
そうして持って行かれたその箱を見送って、貴女は、ラッキーはどこに行くの、と聞きました。
ご母堂は泣き腫らした目を空に向け、ラッキーはお星さまになるの、と言いました。
今も貴女は、人が死んだらどうなるのか、本当にはご存じありません。それは今生きている者のさだめです。生きている間は、そのことをすっかり忘れてしまうものなのです。
けれど、怖がることはありません。その時が来れば、貴女は必ず、穏やかに迎え入れられます。それだけは、分かっておいてほしいのです。
貴女は今、長い長い、旅の途中なのです。
貴女の魂は、二千年以上を旅してきました。
それが如何に稀有な長さなのか、貴女にも何となくお分かりになるでしょう。
その旅路がどこまで続くのかは、誰にも分かりません。
けれど、ええ、俺たちは、貴女の最期の最後まで、貴女と共に歩み続けます。どうか、ひとりぼっちになることなど、心配しないでくださいね。貴女は愛されているのです。こんなにも多くの者に、こんなにも長い間、こんなにも、深く、深く、深く。
俺は、五百五十年余り貴女を見守ってきましたが、貴女の見せる様々な顔には何度も驚かされました。
あれだけ慈悲深い方の魂を持つ方が、こんな振る舞いをされるのか。あるいは、若い頃あんなに奔放だった方が、年を重ねてこんなにも円熟されるのか。何度そう思わされたことでしょう。
けれど、どの生でも共通して言えるのは、貴女は年を取ると、いつも同じような性格になるということです。
ですから、安心してください。貴女は今のご自分のままでは、碌な老人にならないだろうと諦めてすらいらっしゃいます。
大丈夫です。俺たちが保証します。貴女はいつもと同じように、思慮深くて愛情深い、優しい老婆になれますから。