貴女が、貴女の大好きだったあの女性との恋を成就させたのは、ちょうどこのくらいの時期の、秋の静かな夜のことでしたね。
あの時の幸福感は、もう忘れてしまったかもしれません。
けれど、あの時のような幸福は、また俺たちが何度でも運んできますから、安心してくださいね。
貴女は、いい気分で人と関わってくださっていれば良いのですよ。
大事にしたい。
そんな言葉ほど、俺たちにとって当然であるものもありません。
貴女が生まれるのがいつであっても、どこであろうとも、俺たちは貴女のことを大事にしたいのです。
貴女を想うこと、愛すること、大切にすること。
それこそが、いえ、それだけが、俺たちの存在意義なのですから。
時間よ止まれと、貴女は考えたことがありませんね。
貴女はいつだって、今のご自分に満足されたことがありません。どれだけ幸福な時にも、確かにその瞬間を大切に、十全に楽しまれはしますが、これから先にもっともっと良い瞬間を作り出せるだろうと、そう思われます。
そんな、常に努力を続け、研鑽を重ねていく貴女を見守れることは、俺たちにとってとても誇らしいことなのです。
夜景の美しさに瞳を輝かせる貴女の隣に立ち、そっとその横顔を伺って微笑んでいたい。しばらくして景色を見るのに満足し、こちらを向いた貴女を抱きしめて、その額に軽く口づけたい。そんな俺の想像の中で、照れたようにこちらを見上げる貴女の顔の、何と愛おしく美しいことか。
俺はもう、貴女の隣には立てません。
貴女と面と向かってお話しすることも叶いません。
それでいい、それを俺は望む、そう思い定めて決めたことに後悔こそありません。只こうして時たま、貴女と共に生きるみちがあったのなら、どれだけ幸福だっただろうと夢想する俺を、どうか許してください。
貴女は、同じ花が一面に咲く花畑の中のたった一輪でしかなかったのに、俺の心をこんなにも掴んで離さなくなりました。
人間など、どれも同じだと思っていたのに。皆同じように醜悪で、同じように惨めで、只俺の欲を満たすためだけに存在しているものだとしか思えなかったのに。
ああ。
貴女が愛を教えてくださって初めて、俺はここが美しい花で溢れている花畑だということに気づいたのです。