読むのが怖くて、なかなか開けない便りもありますね。
とはいえ、びくびくしていても、その便りが貴女の手元に届いてしまっているということに変わりはありません。最近の貴女は、それを重々承知していて、あまり躊躇うことなくそういうものを開封できるようになりました。
自分に選べること、悩んだり怯えたりする価値や意味があるもの、ないもの。そういうものを丁寧に見極めて、日々を軽やかに、いい気分で過ごしていけると良いですね。
貴女はしばしば、「不完全な私が許せない」とおっしゃっていましたね。そんな風に考える必要など、どこにもないのですよ。
ええ、人間は皆不完全です。
そもそも、この世に完全なものなどありません。
あの大きな廻り続けるものですら、完全ではありません。
そんなものは、目指すだけ無意味なのです。
貴女は、そのままの貴女でいてください。
貴女の周りの方々は、貴女をお守りしている俺たちは、そのままの貴女を愛しているのです。
視野が狭くて、思い込みが激しくて、泣き虫で、身体の使い方が下手くそで。けれど人を思いやる心があって、人の役に立つのが大好きで、より高みを目指し続ける意志があって。
そういう不完全な貴女は誰より魅力的で、人の心を惹きつけて止みません。
どうか、そのままの貴女を、貴女も愛してあげてくださいね。
あの時の貴女も、今の貴女と同様、進んで香水をつけるような方ではありませんでした。着るものもあまり頓着せず、化粧のようなことなど以ての外、という様子でした。
けれど、こんなことを言うのは憚られますが、あの時の貴女からは本当に芳しい香りがしたのです。女ならば何でも、という気分でいた俺は、その香りと貴女の肌の柔さにすっかり夢中になってしまいました。花とも果物とも違う、けれどどこか甘いような、そして懐かしくとても落ち着くような、そんな香りでした。
今、貴女にあんな狼藉を働くわけにはいきません。
それでも、時折それを夢想してしまいます。あの時のように、貴女をこの腕の中に閉じ込めて、貴女の柔らかい肩口に顔を埋め、今の貴女の匂いを胸一杯に味わいたいのです。
そんな不埒な妄想にふける俺を、貴女は許してくださるでしょうか。
言葉がいらないなどというのは、間違いです。
貴女は確かに、あの時の俺のことを行動で諭してくださいました。けれど、それが分からない…通じない人間も、たくさんいるのです。
ですから、全てを行動で示そうなどと考えないでください。
言葉で表し、行動にも移し、できるだけたくさんの方法で、貴女の意志を人に、社会に、世界に示してください。
俺が貴女の庵に押し入ったことが、俺と貴女との物語の始まりでした。
貴女はもしかしたら、そのことを「突然の来訪」とでも表現するかもしれませんね。茶目っ気たっぷりの貴女の顔が想像できて、微笑ましい気もしますし、申し訳ないとも感じられます。
貴女は俺のような者のことも、受け入れてくださいました。
その愛に浴することができて、俺は全く幸福です。
今、そのいただいた愛を、あるいはそれ以上のものを、貴女にお返しできているでしょうか。そうであることを、日々祈り続けています。