貴女が子どもの頃は、俺たちはあまり出る幕がありませんでした。
俺たちが差し上げた環境があまりにも安定していたので、俺たちが何もしなくても、貴女の周囲は幸福で満たされていました。
貴女が育ってきて、人との出会いが活発になっていくと、俺たちの出番も少しずつ回ってきました。
人は皆が皆、善性を持っているわけではありません。根っからの悪人というのもいます。貴女は誰にでもお優しいですし、幸福な環境ですくすくと育っていらっしゃったので、そのような人間に捕まった時に対処ができないでしょう。
だから俺たちは、本当に危険な人間と貴女が近しくならないように、細心の注意を払いました。
貴女はもしかすると、何と余計なお世話だと憤るかもしれませんね。自分が成長する機会を、あなた方は私から奪ったのだ、と。
けれど、失礼ながら断言しますが、貴女にはそんなものを身につけることはできませんし、その必要もないのです。
貴女は過去世において、ずっとご自分の身を危険に晒しながら、人に愛を与えてきました。貴女は何度もそのせいで騙されたり、酷い目に遭ったり、時には殺されてしまうことすらありました。俺と縁を持ったことだって、もし当時俺自身が貴女を守っていたら、絶対に出会わせないように全力で阻止したでしょう。
それだけ辛い目に遭いながら、貴女はずっとずっと人を信じ、人を愛し、人に尽くしてきたのです。その間、危険な人間と渡り合う術を身につけたことは、只の一度もありませんでした。
だから今世でくらい、俺たちは貴女に、傷つかず幸福に、ただただ幸福に生きてほしかったのです。
俺たちは貴女に、何でもない、只穏やかに流れていく日常を贈って差し上げたつもりです。日々命の危険に晒されたり、暴力の中で恐怖に泣いたり、そういうことがない日常を。
貴女がそれを気に入っているかは分かりませんが、そんな日々の中で幸せに微笑みながら生きていってくだされば、俺たちは皆満足です。
もちろん、全く別の、例えばもっと冒険に満ち溢れた刺激的な日常を、貴女は欲しても良いのですよ。俺たちは、俺たちの用意したものを貴女が気に入らなかったと言って、怒ったり気分を害したりはしません。ご自分の幸福を見つけるために、貴女が積極的に生きてくださるのなら、それがいちばんです。
俺たちの大好きで、いちばん大切な貴女。
貴女が幸せでいてくれさえすれば、俺たちは心から満たされるのです。
貴女の好きな色は、空の色ですね。
澄み渡る青空も、暮れゆく茜色の空も、夜に沈む直前の藍色の空も、貴女は大好きです。
貴女が好きなものを見ているのを、俺はずっと眺めていたい。
少し頬を緩ませ、目を細めて嬉しそうに好きなものを見ている貴女のことが、俺は世界でいちばん大好きです。
貴女がいたから、俺は人を愛することを知ることができました。
ああ。
俺の愛する、たった一人のひと。
どうか、どうか、幸福に生きてください。
幸せに笑っていてください。
ただそれだけが、俺の願いです。
貴女は、甘い恋について夢想することがありますね。
相合傘でしとしと降る雨の中を寄り添って歩いたり、浜辺や草原でじゃれ合ったり、褥の中で大切なところを優しく暴かれ、悦びに身を震わせたり。
貴女が恋に身を焦がす姿も、俺たちには愛しく思えます。激情に身を任せるのも、人生の中の一興です。
貴女が人のためと言って、ご自分の心を殺すのは見たくありません。どうか貴女の思いに嘘をつかず、貴女の幸福な人生を歩んでくださいね。