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 貴女が子どもの頃は、俺たちはあまり出る幕がありませんでした。
 俺たちが差し上げた環境があまりにも安定していたので、俺たちが何もしなくても、貴女の周囲は幸福で満たされていました。

 貴女が育ってきて、人との出会いが活発になっていくと、俺たちの出番も少しずつ回ってきました。
 人は皆が皆、善性を持っているわけではありません。根っからの悪人というのもいます。貴女は誰にでもお優しいですし、幸福な環境ですくすくと育っていらっしゃったので、そのような人間に捕まった時に対処ができないでしょう。
 だから俺たちは、本当に危険な人間と貴女が近しくならないように、細心の注意を払いました。

 貴女はもしかすると、何と余計なお世話だと憤るかもしれませんね。自分が成長する機会を、あなた方は私から奪ったのだ、と。
 けれど、失礼ながら断言しますが、貴女にはそんなものを身につけることはできませんし、その必要もないのです。
 貴女は過去世において、ずっとご自分の身を危険に晒しながら、人に愛を与えてきました。貴女は何度もそのせいで騙されたり、酷い目に遭ったり、時には殺されてしまうことすらありました。俺と縁を持ったことだって、もし当時俺自身が貴女を守っていたら、絶対に出会わせないように全力で阻止したでしょう。

 それだけ辛い目に遭いながら、貴女はずっとずっと人を信じ、人を愛し、人に尽くしてきたのです。その間、危険な人間と渡り合う術を身につけたことは、只の一度もありませんでした。

 だから今世でくらい、俺たちは貴女に、傷つかず幸福に、ただただ幸福に生きてほしかったのです。

6/23/2024, 2:16:38 PM