お題『また会いましょう』
婚活で最初に会ったとき、目の前の男はずっとにちゃにちゃした笑みを浮かべていた。不躾にこちらの姿をわかりやすく上から下まで首を動かしてスキャンしているのが丸わかりだ。
それでカフェに行って席についたけど、向こうは喋らずずっとにやにやしたままこちらを見つめている。その空気が気まずくて、私はずっとしゃべり続けた。
それからふと、会話が途切れたタイミングで彼がようやく口を開く。
「綺麗ですね。カーディガンに花がらの膝丈ワンピース、よくお似合いです」
そして、デュフフフと笑い出した。
キモい、キモすぎる。鳥肌が立った。
私は一刻も早く帰りたかったが、彼はそれからもあまり言葉を返さず、彼から話を切り出すことなくニヤニヤしているだけ。どうにか話をつないで一時間くらい経った後に帰ろうって話になった。
「楽しかったです。また会いましょう」
喋らない分際でにちゃにちゃしながらそう言う彼に
「あ、はい」
とにこやかに返し、彼と別れ背を向けた瞬間表情を消した。
気持ち悪い。あなたとだけはないわ。と心で返した。
お題『スリル』
推しは出るんじゃない、出すんだ
職場の同僚がそんなことを言っていた。その時は、「あほみたいだなぁ」と思っていた。
だけど、あるソシャゲに手を出して、推しができた瞬間に同僚が言っていた意味がわかった。
推しは、絶対に欲しくなるのだ。
だけど、私は無課金と決めている。ガチャを回すとき、「でろ、でろ、でろ」と課金するかしないかの瀬戸際を味わっているのだ。
お題『飛べない翼』
ある日、怪我をして飛べない白い小鳥を見つけた。
なんだか痛々しそうで思わず連れて帰って消毒液を塗って、包帯を巻いてあげた。
それからしばらく一緒に過ごしたと思う。鳥かごを買おうとしたら嫌がったし、鳥の餌を買おうとしたらつつかれて、人間の食事を好んだっけ。
とにかく仕事で疲れている僕の癒しになったことは確かだ。
何日か経って、小鳥は窓の外を見つめるようになった。
「どうしたの?」
と聞いたとたん、眩しい光が部屋にあふれて気がつくと僕の目の前に白いワンピースを着た少女が立っていた。少女の背中には真っ白な翼が生えていた。
「君……」
「今までたくさんお世話してくれてありがとう。楽しかった。でもごめん、戻らないと」
そう言って女の子は翼を広げ、光さす空の方へ飛んでいった。
とつぜんのことに呆然とした僕はなにも言えず、ただ空を見上げるしかなかった。
お題『ススキ』
うちの学校は山奥にある。友達が一年生のとき、あわてた様子で学校の裏山ですすきを集めてたのを思い出す。
どうやら、「ステージに上がる先輩が背負う羽を後輩が作らないといけない」と言われているからなのだ。
友達は宝塚の真似事をする部活に入っていて、そこはとても上下関係が厳しく大変そうだなぁと思いながら見ていた。
今、私たちは三年生。友達がトップになった。容姿端麗なだけじゃなくて、ダンス頑張ってるの知ってたからトップになれたって言われたときはすごく嬉しかった。
その友達は今度の文化祭で後輩が作ったすすきで出来た羽を背負ってステージに上がるらしい。
……その風潮だけはどうにかできなかったのかな、と部外者である私は正直思うのである。
お題『脳裏』
どうかどうか私の頭の中をのぞかないでください。すみません。
私は会議中だというのに、自分の立場が下っ端で今あまり自分の作業に関係ない話をされているものですから、まったくべつのことを考えていたんです。
今発表しているデキる同期であるAくんと、それに講評をのべるかっこいい上司のBさんとのめくるめく愛のボーイズラブな日々を勝手に妄想していました。
にやけてしまう口元を思わずちいさく咳払いするふりをしておさえます。
お願いです。どうか、どうか今の私の頭の中を覗かないでほしいのです。もしのぞかれたら私は社会的に終わってしまいます。そんなことしたら推し二人を見ることができなくて辛いのです。