お題『飛べない翼』
ある日、怪我をして飛べない白い小鳥を見つけた。
なんだか痛々しそうで思わず連れて帰って消毒液を塗って、包帯を巻いてあげた。
それからしばらく一緒に過ごしたと思う。鳥かごを買おうとしたら嫌がったし、鳥の餌を買おうとしたらつつかれて、人間の食事を好んだっけ。
とにかく仕事で疲れている僕の癒しになったことは確かだ。
何日か経って、小鳥は窓の外を見つめるようになった。
「どうしたの?」
と聞いたとたん、眩しい光が部屋にあふれて気がつくと僕の目の前に白いワンピースを着た少女が立っていた。少女の背中には真っ白な翼が生えていた。
「君……」
「今までたくさんお世話してくれてありがとう。楽しかった。でもごめん、戻らないと」
そう言って女の子は翼を広げ、光さす空の方へ飛んでいった。
とつぜんのことに呆然とした僕はなにも言えず、ただ空を見上げるしかなかった。
お題『ススキ』
うちの学校は山奥にある。友達が一年生のとき、あわてた様子で学校の裏山ですすきを集めてたのを思い出す。
どうやら、「ステージに上がる先輩が背負う羽を後輩が作らないといけない」と言われているからなのだ。
友達は宝塚の真似事をする部活に入っていて、そこはとても上下関係が厳しく大変そうだなぁと思いながら見ていた。
今、私たちは三年生。友達がトップになった。容姿端麗なだけじゃなくて、ダンス頑張ってるの知ってたからトップになれたって言われたときはすごく嬉しかった。
その友達は今度の文化祭で後輩が作ったすすきで出来た羽を背負ってステージに上がるらしい。
……その風潮だけはどうにかできなかったのかな、と部外者である私は正直思うのである。
お題『脳裏』
どうかどうか私の頭の中をのぞかないでください。すみません。
私は会議中だというのに、自分の立場が下っ端で今あまり自分の作業に関係ない話をされているものですから、まったくべつのことを考えていたんです。
今発表しているデキる同期であるAくんと、それに講評をのべるかっこいい上司のBさんとのめくるめく愛のボーイズラブな日々を勝手に妄想していました。
にやけてしまう口元を思わずちいさく咳払いするふりをしておさえます。
お願いです。どうか、どうか今の私の頭の中を覗かないでほしいのです。もしのぞかれたら私は社会的に終わってしまいます。そんなことしたら推し二人を見ることができなくて辛いのです。
お題『意味がないこと』
「日常回もういいよ、さっさと次の敵登場してくんねぇかなぁ」
同棲している彼氏のその言葉に私はイラッとした。今見ているのは、国民的週刊少年誌のバトル漫画のアニメだ。この漫画が人気あるのは強大な敵に立ち向かう王道ストーリーなのだが、今はたまたま日常回をやっている。バトルが見たい人からすると退屈きわまりないものらしい。漫画でも「この場面いらない」なんて掲示板で書かれてたりする。
だが私は、この一見意味がないように見えるこの主人公とライバルのやりとりが好きだ。
主人公の天然ボケっぷりと、主人公に執着するライバルが主人公との会話のキャッチボールがうまくできなくて歯がゆそうにしている、私は正直この漫画の中でも好きなシーン五本の指に入る。
だから私は、彼氏のとなりに腰掛けてわざと大きい声で
「はぁー、尊い」
と言ってやるのだ。彼氏がぐぬぬと、歯がゆそうな顔をする。
「こんなの腐女子しか好きじゃねぇよ」
ぼそっと聞こえた言葉を聞き流す。
そうだよ、私腐ってるの。それ知ってて付き合ったんでしょ? と言いたくなるところだが、それよりも目の前のシーンが最高で目を離したくない。私はこの本筋に関係ないやり取りを心置きなく楽しんだ。
お題『あなたとわたし』
たまたまクラスメイトと帰りが一緒になった。授業でやる発表会があって同じグループになった子と今二人で帰っている。その子とは正直あまり話したことがない。というよりも、私はクラスの人とほとんど言葉を交わしたことがない。
その子から「一緒に帰ろ」と言われ、正直気まずいなぁと思いながらも一緒に歩いている。なに話せばいいんだろう、そう思った時にクラスメイトがふと
「あー、帰りパフェ食べに行こ」
と呟いた。私はそれに対して一瞥するだけでなんのリアクションも返せなかった。だが、気がついたら喫茶店の目の前で立ち止まる。
「じゃ、私はこれで」
「え、なに言ってるの? あなたも一緒だよ」
「へ?」
「あなたと私でパフェ食べるの。ほら、普段クラスで喋れてないんだしいい機会じゃん」
って言いながら彼女はお店に入っていく。
可笑しいな、私が誘われるなんて。自然と口角が上がってしまう。人から誘われることなんて滅多にないから正直嬉しくて私は彼女の後をついていった。