白糸馨月

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お題『意味がないこと』

「日常回もういいよ、さっさと次の敵登場してくんねぇかなぁ」

 同棲している彼氏のその言葉に私はイラッとした。今見ているのは、国民的週刊少年誌のバトル漫画のアニメだ。この漫画が人気あるのは強大な敵に立ち向かう王道ストーリーなのだが、今はたまたま日常回をやっている。バトルが見たい人からすると退屈きわまりないものらしい。漫画でも「この場面いらない」なんて掲示板で書かれてたりする。
 だが私は、この一見意味がないように見えるこの主人公とライバルのやりとりが好きだ。
 主人公の天然ボケっぷりと、主人公に執着するライバルが主人公との会話のキャッチボールがうまくできなくて歯がゆそうにしている、私は正直この漫画の中でも好きなシーン五本の指に入る。
 だから私は、彼氏のとなりに腰掛けてわざと大きい声で

「はぁー、尊い」

 と言ってやるのだ。彼氏がぐぬぬと、歯がゆそうな顔をする。

「こんなの腐女子しか好きじゃねぇよ」

 ぼそっと聞こえた言葉を聞き流す。
 そうだよ、私腐ってるの。それ知ってて付き合ったんでしょ? と言いたくなるところだが、それよりも目の前のシーンが最高で目を離したくない。私はこの本筋に関係ないやり取りを心置きなく楽しんだ。

11/9/2024, 2:11:14 AM