お題『声が枯れるまで』
とても仲が良い友達がいた。その子はある日、『実は自分は異世界から来た人間で、早く帰らないといけなくなった』と言って、そのまま突如として空にあいた穴に吸い込まれていくように消えていった。彼女からもらった宝石だけが残っている。
それは、彼女がいなくなった瞬間、緑色に明るく光っていたのが急に消えた。
それから数年もの間、不安にかられた。時折、忘れようとすることもあったけど、ふとした瞬間に宝石を見ては気分が塞ぎ込んでいくのが分かった。
それが今、緑色にほのかに輝いている。私は、「もしかして」と、その石を手に外へ出た。
時刻は夜〇時を回った頃、向かう場所は私と彼女が最後にお別れを言った場所。
つくと、いつもと違う光が空にうっすら浮かんでいた。その穴はまだ小さい。
私は友達の名前を呼んだ。何度も何度も繰り返し呼んだ。声がもうガラガラになるまで、出しにくくなっても彼女を呼んだ。
そうしたら、私が手に持っていた宝石が急に明るくきらめきだしたかと思うと、空の穴が大きく広がって中から私と同じくらいの女の子が杖を手にして、変わった紋章があしらわれたワンピースを着て現れた。間違いなく彼女だ。
彼女が地面に降り立つと私は勢いよく駆け寄って、彼女に抱きついた。
「おかえり!」
「ただいま。あいかわらず、甘えんぼさんねぇ」
彼女が頭を撫でてくれる手がとても温かかった。
お題『始まりはいつも』
緊張する。
暇だからという理由で、勢いで知らない人達と遊ぶイベントに申し込んでしまうことが何回かある。
自分から楽しそうだと思って申し込んだくせに行く前になると、『いやな人達だったらどうしよう』とか『うまく喋れるかな』とか考えてネガティブになってしまう。
やはり人と話すと緊張するけど、毎回運がいことに楽しい気持ちで帰ることが多い。
お題『すれ違い』
すれ違いモノは、なんぼあってもいい。
私には、推しカプがいて、原作では誤解の末に仲違いしている関係性だ。
彼等が会うたび火花を散らし合うやりとりが良くて、推している。
そんな関係性だからか、二次創作では彼等の創作物が数多くある。それもBLとして。
そんななか、私が好きな商業BL漫画家がそのジャンルの二次創作に手を出した。数ページほどの漫画で、読んでみて私は思わず天を仰いだ。
神の画風で推し達がすれ違いの末にくっつく。空気感もエモの塊でなんて尊いんだろう。
私は、それからしばらくその漫画を何度も繰り返し読み続けた。
お題『秋晴れ』
朝起きたら、暑かった。もう十月も後半にさしかかっているというのにだ。
外を見たら、秋とは思えないほど空が明るくて、外に出たら案の定、夏みたいに暑かった。
これじゃ、秋なんて味わう間もなく、すぐに冬が来てしまうのではないかと思う。
お題『忘れたくても忘れられない』
私は、いまだに何年も付き合った元彼のことが好きだ。
けっして性格はよくない。思ったことがすぐ口に出てしまうし、不機嫌な気持ちを隠すってことをしないし、でも容姿は比較的いい方だ。一緒に歩いていると、自分がいいモノになったような気がするくらいには。
好きなのに別れたのは、彼が何度目かの浮気をしてお互いに怒って罵りあって、売り言葉に買い言葉で「じゃあ、別れてやるよ!」と言われて私たちの関係は終わった。
今、別の人と付き合ってる。見た目はよくないがいつも私のことを気遣ってくれて、不機嫌になってるところなんて見たことないし、私の話をじっくり聞いてくれる。一緒にいてストレスを感じない。
近い内に私は、彼と結婚することになると思う。最初から結婚前提で付き合ってきたから。
それでも元彼に対して感じていたときめきや恋心は、今の彼に対しては持ち合わせていなくて、時折申し訳無さすら感じる。『この人といれば幸せになれる』、『人間としては好き』という感情だけでこの関係を続けている。
この人に対して誠意を持って向き合いたい。大好きだった元彼のことが忘れられない私に腹が立つ。