白糸馨月

Open App
9/28/2024, 2:08:30 AM

お題『通り雨』

「エモーショナルクラウドって知ってる?」
「あー、最近話題の?」
「そう。この前クラスの子のところだけ局所的に雨が降られてるのをみちゃってさぁ」
「えっ!? 実在すんの?」
「実在するみたい。そう言えばその子、彼氏にフラれたとかなんかで」
「えぇ……」
 できればそんなモノに出くわしたくないなと思った。だって公開処刑じゃん、その子のところだけ雨が降るなんて。ま、すぐやむらしいけど。

 っていう会話をした矢先、サプライズで年上の彼氏が住んでるアパートへ行ったら、女がいた。二人仲良くベッドの中にいる。
 私はわざと大きな音を立てて部屋に入る。二人共ぎょっとした顔をして私を見ていた。
「なにしてんの?」
 冷たい声音に自分でもひどく驚く。彼氏はあわてた様子でベッドから出てきて
「これには事情があって」
 と説明しはじめた。私はスッと急激に自分の感情がさめていく感覚を覚える。横にいる女は笑いながらこっち見てる。きっと彼を陥落させたのだろう。
「マジでキモい」
 その女も、好きだった男も。私は勝ち誇った顔してる女に向かって合鍵を投げつけた。
「きゃっ!」
「こんなもの、くれてやる!」
 そう言って私は部屋を出ていった。

 なんでこんな男なんか好きだったんだろう。年上の大学生で背が高くてかっこよくて、自慢だった。それが他にも女がいるクズだったなんて。
 私は自分の男を見る目がなさに涙があふれてきた。どこか隠れられる場所はないか、探していると上から額が濡れる感触がした。続いて肩が、やがてだんだん濡れる面積が広くなる。
 自分がいるところだけ雨が降っているのだ。頭上には私の頭の上だけにかかる灰色の雲。
「勘弁してぇ、恥ずかしいぃ」
 泣き止みたくても泣き止めない。無駄なエモい展開とかマジでいらない。私は感情がぐっちゃぐちゃになりながら公開処刑雲の下でボロボロ涙をこぼしていた。

9/27/2024, 9:04:54 AM

お題『秋🍁』

 食欲には勝てないのだとあらためて思う。
 どこかのお寺の敷地内にある料亭がなんだか秋になると紅葉が綺麗で見物なんだと、テレビの情報番組が伝えていた。
 私はきれいなものを見るのが好きだ。紅葉、いいよね、赤とか黄色とか葉っぱが色づいてそれがはらはら落ちていくの、桜とはまた違ったオモムキっていうの? そういうのがあるよねなんて思っていたら、その次に映った映像に私の目はくぎづけになった。
 薄茶色のご飯はつやつやに光っていて、その上に紅葉を模した人参と、三つ葉のくきと葉が飾られていて、それ以上に目を引いたのが薄切りにされた松茸だった。
 その瞬間、思わずよだれがたれる。
 私はきれいなものも好きだが、美味しいものを食べるのはもっと好きだ。
 気がつくと私は、そこの料亭の電話番号を調べしばらく待った後、予約を入れていた。人気店らしく紅葉の時期とは多少ずれたがまぁいい。
 それだけに飽き足らず、私は自分の口が炊き込みご飯の口になっていることに気がついて、米を出し始めた。
 最近、実家に帰った時、母から痩せるように言われたばかりだ。でも、美味しいものは食べたいのだから仕方ないのだ。だから食欲に勝てないのだと思う。

9/26/2024, 3:41:47 AM

お題『窓から見える景色』

 電車の外の景色が都内のビルばかりの街並みからなにもない畑が広がってるだけの風景だったり、ときどき変わった感じのホテル街が見えたりする時、あぁ都会から出られたなぁと思う。
 たまたま今日休みがとれたので、一人で温泉地へ向かう予定だ。たまにこうして温泉行くために遠出することがある。
 最近、仕事が忙しく、終わりが夜遅くなることがあるからそろそろ温泉に行きたいと思っていたところにたまたま気になっていた旅館があいて、『休みます』と言い切って出かけているところだ。
 しかし、窓から変わる景色を眺めていると『旅行が始まる』という感じがして毎回高揚するのである。

9/24/2024, 11:52:47 PM

お題『形の無いもの』

 まいった。なにもネタが思い浮かばない。
 小説を書いていると、何度かそういう悩みにぶち当たることがある。
 そんなある日、私はなんとなく字書きが運営してるブログを読んでいるとマインドマップツールの紹介がされていた。
 どうやらワードから広げていくごとにネタが思い浮かぶヒントが得られるらしい。
 私はもともとマインドマップを書くのは苦手だったけど、アプリをダウンロードして、お題を中央に置いてそこから言葉を連想していく。
 今はまだ使い慣れていないけれど、言葉から連想していくごとにあやふやだった『書きたいもの』が形になっていくのだろうかと、期待してやっている。

9/23/2024, 11:23:32 PM

お題『ジャングルジム』

 小さい頃、ジャングルジムの頂上まで登れなかった。恐れ知らずな子供ならすいすい行けただろうけど、僕はそうはなれなかった。
 そんな僕は今日、勤めてきたブラック企業を辞めた。
 次のよりホワイトな企業を求めたゆえのステップアップのためだ。人手不足が故に上司や同僚から引き止められたが深夜まで残業して働く気にはなれなかった。
 だから、一念発起して転職活動をして無事いい企業に転職することができた。
 次の仕事が始まるまであと一月ある。
 そこでふと、公園のジャングルジムの存在を思い出したんだ。
(今なら登れるかもしれない)
 会社の退職手続きを終えて出た後、僕は公園のジャングルジムの前に立っている。
 カバンを地面に置き、僕はジャングルジムを登り始めた。ジャングルジムってこんなに小さかったかなと思う。
 だが、今ならなにも怖くない気がする。
 そうしているうちに今まで止まっていた頂上より一つ下の段から頂上に足を掛けられた時、言いしれない興奮の感情が脳内を渦巻いた。
 そのまま一気に頂上へ向かい、足を引っ掛けて腰掛け、ガッツポーズを決める。
 すると、下にいた子どもと目があった。横にいたお母さんが
「あぁ、かわいそうに。貴方は本当に辛くなる前に人に相談できる子になりなさいね」
 と言い聞かせているのが見えて、子供が意味もわからずきょとんとしている。
 だが、僕は会社に行くふりしているスーツ姿の男ではない。
「大丈夫、未来は明るいよー!」
 と叫んだら、お母さんが子供を連れてその場から逃げていった。すこし恥ずかしいことをしたけど、今の僕はなにも怖くない気がした。

Next