お題『裏返し』
「パジャマを裏返して寝ると、運命の人に会えるんだって」
っておまじないが好きな友達に言われて、その時は「そんなことあるわけないじゃん」と笑っていた。
だけど夜、お風呂からあがってパジャマを手にしてふと思う。私には好きな人がいる。運動も勉強もできて、目立つグループのなかでそこまで馬鹿騒ぎしない男子のことが。
「これやったら、もしかして、あの子と……」
そう思った瞬間、私はパジャマを裏返しで着替え始めて、親にバレないようにそそくさと自分の部屋へ戻ってベッドにたどりつく。
(お願いです。私と彼をくっつけてください)
そうお祈りしながら私は眠りについた。
お題『鳥のように』
鳥のように自由に空を飛びたい、なんて言うけどさ、そのへんにいる鳥を見てあまりそうは思えないよな。
なんていうか、カラスはゴミあさるし、なんなら女子供めがけてわざと低空飛行してくるし、
ハトは餌くれる輩がいたらそいつに向かって一目散に飛んできて餌をついばむじゃないか。
スズメは小さすぎてつぶしてしまうのが怖いし、たまにいる駅に巣を作ってるツバメはヒナは可愛いが柱にフンがついてるのが気になる。
だから、鳥のようにから連想されるのは『人間はお前らのこと襲わないし、あいつら、自由気ままでいいよな』と思うことだけだ。
お題『さよならを言う前に』
マッチングアプリで知り合った女の子との食事は楽しかった。僕なんかのいいねを受けてくれて、僕にはもったいないほどかわいくて細くてオシャレで、僕とは比較にならないほど話するのが上手くて。
その一方で僕は緊張してロクに喋れなかった気がする。かわいすぎて直視できなかったし、お酒弱いし少食だから一緒にいても楽しくないんだろうなと思う。今回の場は、彼女がもたせてくれたようなものだ。
それでも一緒にいて楽しかったから、だから勇気を振り絞って言おう。
改札の前に着いた時、僕は言った。
「あ、あのっ……!」
「はい」
彼女はニコニコ笑って僕の呼びかけに応えてくれる。
「来週の土曜日、あいてますか?」
「はい! もちろん」
「今度、どこか行きませんか?」
このやりとりがもうドキドキする。すると彼女は花が咲くような笑みを僕に見せてくれた。
「ぜひ! 行きましょ!」
僕なんかの誘いに乗ってくれるなんて本当に女神かなと思う。
「じゃ、じゃあ……場所はまたLINEできめましょう」
「分かりました! 楽しみにしてます! ではまた!」
そう言って彼女は改札に入って、僕に手を振る。
僕は手を振返しながら心のなかでガッツポーズを決めた。
お題『空模様』
私はよく空の写真を撮ってはインスタにあげている。
べつに写真にこだわってるとかそんなではない。ただ「なんとなく」だ。
べつに空が好きなわけではない。そもそも友達とかわいい場所に遊びに行ったりした日は、その場所と友達との写真をあげて空の写真はあげないが、ネタがない時に空の写真は便利だったりする。なんとなくそこに謎のポエムをつけたりすると、たまに知らない人からいいねがもらえたりするからやめられない。
ある時、友達に「なんで空の写真ばかり載せてるの?」と聞かれた。なんとなく『いいねがもらえるから』って言うのは恥ずかしい。それにネタがなくても空の写真を載せておけばどうにかなる。そんなところだけど、うまく説明するための理由をすこし考えた。
「だってそっちの方がエモいから」
「ポエムは?」
「あった方がエモいかなって」
「ふぅん……今日の夕焼け、とてもきれいで、いとエモし」
「声に出して読まないでよ!」
「まだあるよ。今日の空はくもりだが、雨に濡れたはっぱにおもむきを感じる……清少納言かよ!」
「リスペクトしてます!」
「ウケるー」
友達にイジられつつ、私はこれからもしばらくはやめないんだろうなと思った。
お題『鏡』
鏡を見て、自分の顔を確認する。
腫れぼったかった一重は、まぶたを切開して二重にして、ついでに目頭も切開して目の形をよくした。
うすかった唇も分厚くなりすぎない程度に厚くした。
ホームベースみたいでコンプレックスだった顎は切って卵型といえる顔の形になった。
鼻も高くした。
その結果、今まで私のことをブス呼ばわりしてきたやつらが急に手のひらを返すように「かわいい」だの「美人」だの言ってくるようになった。
ついでにかっこよくて金持ちの彼氏も出来た。
でも何かが足りない。何が足りないんだろう。
また鏡で作られた顔を見ながらふと、思う。見つめているうちにふと、鼻が気になってしまう。
「あ、鼻が低くなってきてる。メンテしないと」
私は鏡からはなれるとさっそく行きつけの美容外科のネットサイトにスマホでアクセスして、予約状況を見始めた。