お題『月に願いを』
『月に向かってなにかを唱えれば、美しさが手に入る』
そんなおまじないがあったことを思い出す。その頃、私は小学生で鼻息を荒くして語る友達に「そんなわけないじゃん」と笑いながら返したっけ。
そんな私も大学生になり、今、窓辺に立っている。
今日、好きな人が好きなタイプについて語ってた。彼の好きな顔は、私の顔の特徴とか服装の好みとは正反対のものだった。
流行りのメイク動画でやったメイクを自分のものにして、髪を巻いてツインテールにして、かわいい服を着ても彼には意味がなかったのだ。
私は自分の好きな格好で好かれたかったけど、彼に好かれるためにはもう少し背が高くて、涼しい顔をして、中性的な見た目である必要があるらしい。
ファッションは変えられるが、背の高さとか顔立ちはどうやっても変えられない。
私は昔、友達に教えられたおまじないを呟く。
つぶやいた所できっとなにも変わらないけど、私は何度もそれを呟く。今だけは、願い事をすれば彼好みの女の子になれるんじゃないかって気がしたんだ。
お題『降り止まない雨』
最悪なことに雨は降り続いている。そんな日にかぎって、俺は傘を忘れた。テレビのニュースなんて見ないし、スマホでも天気予報はチェックしてなかったらこのザマだ。
これが一人暮らしで大学から家が近かったらそのまま濡れて帰ろうと思うが、一人暮らしでも俺が住むところは大学から一時間くらいはかかる。
だが、お金がかかるからビニール傘を買いたくない。というか、これ以上増やしたくない。
仕方ないからサークルの部室で漫画を読んで過ごすことにした。雨は依然として止まない。
このままだと大学に泊まることになる。そう思ったのも束の間だ。
「あ、佐藤さん」
顔を上げると横に後輩、雨宮がいた。大学になると、皆こぞって髪を染め始めるが彼女だけは、サークルに入った当初から今に至るまで、肩甲骨まで伸ばした黒髪ストレートヘアのままだ。そんなところも俺が彼女を好きでいる理由だ。ちなみに一番は、単純に顔がタイプだ。
まさかの好きな人登場に俺は「お、おう」と挨拶らしき返事をする。雨宮は特に俺に気を使うことなく、俺の目の前に座った。漫画を置いて俺は口を開く。
「雨宮、授業終わったの?」
「はい、さっき終わったんですけど雨が降ってきちゃって」
「あ、もしかして傘忘れたとか?」
「はい。うっかり持ってくるの忘れてしまって」
「大丈夫、俺も傘忘れたから」
「佐藤さん、やっぱりそうかなって思ったんです」
雨宮の中で俺はそういう『抜けてるやつ』という認識でいるのが地味にショックだったが、降り止まない雨のおかげで俺は好きな人とラッキーなことに会話が出来たのが俺のこころを晴れ模様にしてくれた。
お題『あの頃の私へ』
クラスで孤立していじめられてて、家でも誰も私のことを理解してくれなくて、ネットにしか居場所がなかった小学生の頃の私へ。
今、孤独にうちひしがれても何年も経てば意外と大丈夫。
自分で友達いないことがまずいと思って、大学になってようやく必死に友達作って今も付き合いがある親友が出来て、あと恋愛も経験するから今がさみしくてもきっと大丈夫。
あと、貴方はもともと一人で遊ぶのが得意だったけど、大人になったら一人でなんでも楽しめる人になるので一人でいることを辛く思わないで欲しい。
大人になったらお金稼ぐようになって、時々一人で旅行行ったり、一人でライブ行ったりするようになるから。
お題『逃げられない』
やっと一つの作業を終えた。一段落して脱力しているところで、俺の目の前に資料の山がドンッと置かれる。
俺に仕事を押し付けやがる直属の上司は広角をニタァと上げる。
「山田くん、これ、今日までだからお願いね。君、仕事はやいからいけるっしょ」
「は、はい……」
「んじゃ、ヨロピクー」
それからその足でスキップしながら女性社員連れて出ていく。俺は震える手で上司に押し付けられた資料の一つを握りしめた。
「逃げられないのかよ、クソが……」
人がほとんどいない社内で小声で呟きながら俺は仕事にとりかかり始めた。
お題『また明日』
「また明日」
そう言って僕は友達と別れた。また明日も会えるって信じてるからいつだってそうして、毎日学校で会ってバカ話して、一緒に帰って別れる。これの繰り返しがずっと続くと思ってた。
親から友達が事故に遭ったと聞いた。塾行く途中、自転車で走ってたら車にはねられたらしい。
僕は友達が入院してる病院を聞いて、すぐに自転車を走らせる。友達のことを思うとやりきれなくて、涙と鼻水が止まらない。
頼む! 生きててくれ! また明日だって学校行くんだろ!
無我夢中で友達がいるところへ、僕はペダルを漕ぎ続けた。