白糸馨月

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お題『降り止まない雨』

 最悪なことに雨は降り続いている。そんな日にかぎって、俺は傘を忘れた。テレビのニュースなんて見ないし、スマホでも天気予報はチェックしてなかったらこのザマだ。
 これが一人暮らしで大学から家が近かったらそのまま濡れて帰ろうと思うが、一人暮らしでも俺が住むところは大学から一時間くらいはかかる。
 だが、お金がかかるからビニール傘を買いたくない。というか、これ以上増やしたくない。
 仕方ないからサークルの部室で漫画を読んで過ごすことにした。雨は依然として止まない。
 このままだと大学に泊まることになる。そう思ったのも束の間だ。

「あ、佐藤さん」

 顔を上げると横に後輩、雨宮がいた。大学になると、皆こぞって髪を染め始めるが彼女だけは、サークルに入った当初から今に至るまで、肩甲骨まで伸ばした黒髪ストレートヘアのままだ。そんなところも俺が彼女を好きでいる理由だ。ちなみに一番は、単純に顔がタイプだ。
 まさかの好きな人登場に俺は「お、おう」と挨拶らしき返事をする。雨宮は特に俺に気を使うことなく、俺の目の前に座った。漫画を置いて俺は口を開く。

「雨宮、授業終わったの?」
「はい、さっき終わったんですけど雨が降ってきちゃって」
「あ、もしかして傘忘れたとか?」
「はい。うっかり持ってくるの忘れてしまって」
「大丈夫、俺も傘忘れたから」
「佐藤さん、やっぱりそうかなって思ったんです」

 雨宮の中で俺はそういう『抜けてるやつ』という認識でいるのが地味にショックだったが、降り止まない雨のおかげで俺は好きな人とラッキーなことに会話が出来たのが俺のこころを晴れ模様にしてくれた。

5/26/2024, 12:40:21 AM